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動物には地震予知能力がある!? 阪神淡路大震災を予知して生き延びた専門家が伝えたいこと

ナマズと地震の関係は?

最初に述べた通り、まだ科学的な説明はされていませんが、地震前に動物が異常行動をとったという報告は珍しくありません。
 
特に、地震に関連する動物としてよく知られているのが「ナマズ」でしょう。
古くから「ナマズが暴れると地震が起こる」ともいわれてきました。

ナマズにはうろこがありません。そして、尻びれの前(赤矢印)が肛門の位置。意外と前の方にあるのです。(イラスト/大渕希郷)  
ナマズにはうろこがありません。そして、尻びれの前(赤矢印)が肛門の位置。意外と前の方にあるのです。(イラスト/大渕希郷)  

ナマズは、コイなどの仲間の淡水魚です。
ナマズには、浮き袋と内耳の間に音を伝える骨があり、聴覚が非常に優れています。
また、全身の皮膚に電気を感じ取る器官があり、電位の差を感じる能力は人間の約100万倍
この能力で、生き物が動く際に発生する微妙な電気もキャッチして、濁った水の中でもエサを確保することができるのです。
 
古くから地震予知にナマズが注目されてきたのは、こうした音や電気に敏感な生態が、地震による何かしらの変化も感じ取っているのではと考えられてきたからでしょう。
 
そしてなんと、他ならぬ日本の首都・東京都が大真面目にナマズと地震の関係を研究していたのです!

東京都の16年にわたるナマズ研究

私が上野動物園在職時に交流のあった葛西臨海水族園の職員らからも話を聞いたのですが、東京都は1976年~1991年まで16年間も、ナマズの行動を研究していました。
さきんじて都内の漁業関係者や郷土館郷土史関係者、あるいはその土地土地の古老の方々に、魚類の異常な行動や生態について聞き取り調査をおこなったそうです。
その結果と、その他文献類も吟味して、もっとも地震前の異常行動を報告が多いこと、物理的・化学的・電気的刺激に敏感であること、飼育も容易であることからナマズが実験対象に選ばれました。
 
詳しい実験の手法や報告については、その後実験を引き継いでいる東海大学海洋研究所のウェブサイトなどにまとめられていますので、興味のある方は、ぜひ確認してみてください(記事末の参考文献参照)。
 
その結果、発生した震度3以上の地震91例中、実験が欠測となった4例を除く87例に対して、10日前までに異常行動の見られたものが27例。
言い換えると、震度3以上の地震が起きる10日前までに、ナマズが異常行動をとる確率は3割でした。
 
この3割という数字を少ないとみるか、多いとみるかは、見解が分かれるところかと思いますが、私は、確率はともかく、何かしらを察知して実際に異常行動をとったナマズがいたという事実は大いに注目すべき点だと考えています。
 
いずれにしても、16年にわたる東京都の研究で残されたデータは非常に貴重です。
解析技術の向上や、あるいは地震の前兆現象の研究などが進めば、データの中から、今は読み解くことができていない情報が浮かび上がってくることも十分ありえます。
都の研究資料をもとに、ナマズの地震予知について科学的な説明がなされる日もそう遠くはないかもしれません。
 
●主な参考文献
江川紳一郎(1991年)「ナマズと地震予知」地震ジャーナル12月号、p8-14
東海大学海洋研究所 地震予知・火山津波研究部門のホームページ

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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