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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」
不惑が間近に迫る年齢になりつつも、変わらず戦い続ける1980年生まれのアスリートたちの人生に、スポーツライター二宮寿朗氏が迫るこの連載。サッカー中村憲剛選手に続く、2人目のアスリートは日本人初のNBAプレーヤー、リンク栃木ブレックス所属のプロバスケットボール田臥勇太選手!初回は史上初の「9冠」を達成した高校時代、2回目はNBAプレイヤーになる直前までの歩みについてお伝えしました。3回目はいよいよ日本人初のNBAプレイヤーとなってから日本復帰までのストーリーです。

バキバキに心が折れても充実していた田臥勇太のアメリカの日々

毎試合熱狂を生む、このブレックスアリーナは田臥の復帰を待っている。(撮影/熊谷貫)
毎試合熱狂を生む、このブレックスアリーナは田臥の復帰を待っている。(撮影/熊谷貫)

2004年11月3日。歴史を作った、最高の10分間

「渡邊選手のように、夢を持って挑戦してくれたらうれしいですよね」

2018年10月、田臥勇太にとっても喜びのニュースが飛び込んできた。
メンフィス・グリズリーズと「2ウェイ契約」(マイナーリーグに所属し、NBAでも最大45日間の帯同可能)を結ぶジョージ・ワシントン大学出身の渡邊雄太がフェニックス・サンズ戦でNBAデビューを果たした。第4クオーター途中から登場し、フリースローから2得点、ディフェンシブリバウンドを2本記録。5年前、日本からアメリカに渡った彼が、夢の扉を開けた瞬間だった。日本人のNBAプレーヤーは2人目。2004年にサンズで日本人初のNBAデビューを果たした田臥以来、実に14年シーズンぶりの出場となった。

時計の針を14年前に戻したい。
あの日、田臥が最高に輝いた11月3日に。

その年のサマーリーグでプレーしたサンズと契約を交わした24歳の田臥は開幕ロースター入りを果たしていた。昨年、デンバー・ナゲッツから開幕直前に解雇された悪夢を乗り越えて、ここまでたどりついた。

本拠地アメリカウエストアリーナで開催されたアトランタ・ホークスとの開幕戦。
第4クオーターの途中、ちょっとブカブカのオレンジ&グレーのユニフォームを身にまとった若者がコートに立った。
歴史的なシーンに歓声、拍手、指笛が響く。
夢にまで見た瞬間は訪れた。少年時代にビデオテープを擦り切れるほどまで見たNBAの舞台を踏んでいた。だがここから本当の勝負が始まろうとしていた。緊張感はあっても高揚感はない。引き締まった表情を緩めることもなかった。

田臥が振り返る。

「デンバーを解雇されて独立リーグに行って、サマーリーグ、トレーニングキャンプをクリアしてようやくユニフォームを着るところまで来ました。とはいっても試合に出る確率となったら、かなり低い。それが開幕戦で、しかも(出場時間が)10分ももらえたのはラッキーでした。かなり大差をつけてくれたので、出るチャンスをもらうことができたんです。

僕としては何よりこの10分が勝負でした。ここで(結果を)出して生き残っていかなきゃいけないわけですから。30点差のリードがもし縮められたら次は使ってもらえないだろうなって思いました。必死にやるしかなかった」

スピード、テクニック、モビリティを活かしたドリブル、パス、シュート。
これまで培ってきたもの、アメリカで積み上げてきたものすべてをこの10分にぶつけようとした。積極的に仕掛け、走り、逆に落ち着かせる。背番号1の呼吸が、チームの呼吸とシンクロしていく。フリースローも決めた。場内のボルテージが一層高まっていく。

残り5分を切ろうとしていた。
パスッ。
鮮やかな弧を描いたスリーポイントショットは、網が揺れる音だけ残して放り込まれた。観客のみならず、チームメートまでフィールドゴールに立ち上がって祝福する。それでも田臥はディフェンスに切り替えて集中を切らさなかった。フリースローの2点を加えて、10分間7得点のハイパフォーマンスを示したNBAデビュー戦は、アリーナにいる誰もが田臥の輝ける明日を信じて疑わなかった。

(次ページに続く)

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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