2020.11.15
霊的なものを感じるとき—”事故物件”対談 松原タニシ氏×鈴木光司氏 <後編>
何かはわからないけど、何かがある面白さ
――おふたりとも霊感はないというお話ですが、部屋に入ったときになんか嫌な感じがするといったことはありますか?
松原 僕はわからないんですけど、引っ越しを手伝ってくれる後輩が探知機がわりになってくれてます。彼は霊感があるわけじゃないのに、なぜか鳥肌が立つんです。台湾の廃墟で廊下の奥から鈴の音が追いかけてきたときも、その鈴の音が鳴る直前に鳥肌が立って。
鈴木 へえ、何だろうね。
松原 新しく引っ越した物件でも、鳥肌が立ってました。何なのかはわからないんだけど、そこに“何かある”ってことが、僕は面白いと感じるんですね。前の住人がクローゼットの中で亡くなった物件でも、後輩がクローゼットの中に入ると、温度が変わったわけでもないのに、なぜか鳥肌だけがぶわっと立った。これはなんなんだろうなといつも思います。
鈴木 何らかの怨念がこもっている場所もあるからね。
松原 怨念って、エネルギーなんですかね?
鈴木 うん、エネルギーだという説もあるね。25年ばかり前、オホーツク海沿岸のニコラエフスクという港町を取材で訪れたんだ。1920年に起こった「尼港事件」の舞台となったところで、当時日本の領土であった樺太から近いこともあり、千人弱の日本人が住んでいた。半分くらいが兵士で、あとはその家族。ロシア革命によって収容されていた罪人が開放され、5000人のパルチザンがニコラエフスクまでやってきて、日本人の住む町を包囲した。恐怖感を募らせた日本人は、堪え切れず奇襲攻撃に出たんだけど、多勢に無勢で敗れ、領事、兵士、居留民700余人が殺されてしまう。捕虜となった122人も撤退するときに全員が虐殺された。
松原 そんな事件があったんですか。知りませんでした。
鈴木 800人以上の日本人が虐殺された場所は、日本領事館だったんだよ。今はもちろん建物はなく、原っぱとなっている。草ぼうぼうで、荒涼として、どこか寒々しい風景が広がってるんだ。さすがに霊感のないおれも、冷たい風に揺れる草を見て鳥肌がたったね。
松原 そういう場所だと知ってて行ったんですか?
鈴木 いや、現地のロシア人通訳に聞いたら、以前の領事館跡だと言われて知った。その土地がもつ、言葉にならない何とも嫌な空気が漂っていたな。
松原 背景を知らずに行った、霊感のない鈴木さんがざわざわと……。何なんでしょうね。そこなんですよ、僕が面白いというか気になってしまうのは。何なのかはわからないけど、何かがあるっていう。事故物件って、ただ人が死んだ場所の上っていうだけで、本当に何もないんですよ。2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)とかの書き込みは想像の話が多くて、ノンフィクションの事故物件は、住んだら何もないっていうことが多いんです。でも、念が強い場所では実際に電気機器が壊れたり、鳥肌が立ったりするんですよね。
鈴木 いろいろな場所に行くのが面白い。本の中でも、独特な場所に行ってたよね。さっき、台湾の廃墟の話が出てきたけど、俺も廃墟に行くのが大好きなんだよ。
松原 本当は僕も日本の廃墟に行きたいんですけど、不法侵入になっちゃうからいつも外側までしか行けないんですよ。
鈴木 あ、廃墟行きたい? ちょうどテレビ番組の企画を出す予定があるから、コンビ組んでやろうよ。ヤドカリ光司と松原タニシで。タニシときたら、ヤドカリ。同じ巻貝同士で……。
松原 ヤドカリ光司ってなんですか!?
鈴木 ヤドカリ好きなんだよ。ヤドカリって成長するたびに貝殻を替えるんだよね。じゃあ生まれた時ってどうなってたんだろうって。
松原 じゃあヤドタニで(笑)。勝手に行けないから、企画にしてもらえたらすごく嬉しいです。廃墟、めちゃ行きたいんですよ。