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霊的なものを感じるとき—”事故物件”対談  松原タニシ氏×鈴木光司氏 <後編>

何かはわからないけど、何かがある面白さ

――おふたりとも霊感はないというお話ですが、部屋に入ったときになんか嫌な感じがするといったことはありますか?

松原 僕はわからないんですけど、引っ越しを手伝ってくれる後輩が探知機がわりになってくれてます。彼は霊感があるわけじゃないのに、なぜか鳥肌が立つんです。台湾の廃墟で廊下の奥から鈴の音が追いかけてきたときも、その鈴の音が鳴る直前に鳥肌が立って。

鈴木 へえ、何だろうね。

松原 新しく引っ越した物件でも、鳥肌が立ってました。何なのかはわからないんだけど、そこに“何かある”ってことが、僕は面白いと感じるんですね。前の住人がクローゼットの中で亡くなった物件でも、後輩がクローゼットの中に入ると、温度が変わったわけでもないのに、なぜか鳥肌だけがぶわっと立った。これはなんなんだろうなといつも思います。

鈴木 何らかの怨念がこもっている場所もあるからね。

松原 怨念って、エネルギーなんですかね?

鈴木 うん、エネルギーだという説もあるね。25年ばかり前、オホーツク海沿岸のニコラエフスクという港町を取材で訪れたんだ。1920年に起こった「尼港事件」の舞台となったところで、当時日本の領土であった樺太から近いこともあり、千人弱の日本人が住んでいた。半分くらいが兵士で、あとはその家族。ロシア革命によって収容されていた罪人が開放され、5000人のパルチザンがニコラエフスクまでやってきて、日本人の住む町を包囲した。恐怖感を募らせた日本人は、堪え切れず奇襲攻撃に出たんだけど、多勢に無勢で敗れ、領事、兵士、居留民700余人が殺されてしまう。捕虜となった122人も撤退するときに全員が虐殺された。

松原 そんな事件があったんですか。知りませんでした。

鈴木 800人以上の日本人が虐殺された場所は、日本領事館だったんだよ。今はもちろん建物はなく、原っぱとなっている。草ぼうぼうで、荒涼として、どこか寒々しい風景が広がってるんだ。さすがに霊感のないおれも、冷たい風に揺れる草を見て鳥肌がたったね。

松原 そういう場所だと知ってて行ったんですか?

鈴木 いや、現地のロシア人通訳に聞いたら、以前の領事館跡だと言われて知った。その土地がもつ、言葉にならない何とも嫌な空気が漂っていたな。

松原 背景を知らずに行った、霊感のない鈴木さんがざわざわと……。何なんでしょうね。そこなんですよ、僕が面白いというか気になってしまうのは。何なのかはわからないけど、何かがあるっていう。事故物件って、ただ人が死んだ場所の上っていうだけで、本当に何もないんですよ。2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)とかの書き込みは想像の話が多くて、ノンフィクションの事故物件は、住んだら何もないっていうことが多いんです。でも、念が強い場所では実際に電気機器が壊れたり、鳥肌が立ったりするんですよね。

鈴木 いろいろな場所に行くのが面白い。本の中でも、独特な場所に行ってたよね。さっき、台湾の廃墟の話が出てきたけど、俺も廃墟に行くのが大好きなんだよ。

松原 本当は僕も日本の廃墟に行きたいんですけど、不法侵入になっちゃうからいつも外側までしか行けないんですよ。

鈴木 あ、廃墟行きたい? ちょうどテレビ番組の企画を出す予定があるから、コンビ組んでやろうよ。ヤドカリ光司と松原タニシで。タニシときたら、ヤドカリ。同じ巻貝同士で……。

松原 ヤドカリ光司ってなんですか!?

鈴木 ヤドカリ好きなんだよ。ヤドカリって成長するたびに貝殻を替えるんだよね。じゃあ生まれた時ってどうなってたんだろうって。

松原 じゃあヤドタニで(笑)。勝手に行けないから、企画にしてもらえたらすごく嬉しいです。廃墟、めちゃ行きたいんですよ。

鈴木光司氏
鈴木光司氏
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新刊紹介

松原タニシ

まつばら・たにし●1982年兵庫県神戸市生まれ。お笑い芸人。主に「事故物件住みます芸人」として活躍中。事故物件に住むようになったのは、先輩芸人・ 北野誠の番組「北野誠のおまえら行くな。」のトークイベント出演時、知り合いの若手芸人が住んでいたアパートでの怖い話を披露したところ、北野からその部屋に住んでみるよう言われたことがきっかけだった。しかしこの物件は諸事情で借りられなかったため、殺人事件があった別の物件に2012年から住むことに。2018年6月、これまでに住んでいた所や物件検討時の内覧、特殊清掃のアルバイトなどで訪れた事故物件を間取り図付きで紹介する『事故物件怪談 恐い間取り』を上梓。本作は、中田秀夫監督、亀梨和也主演(2020年8月公開)で映画化され話題となった。
著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『事故物件怪談 恐い間取り2』『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)、『ゼロからはじめる事故物件生活』(原案・小学館)、『ボクんち事故物件』(原案・竹書房)などがある。
レギュラー番組に、CBCラジオ「北野誠のズバリ」(毎週火曜日13:00~16:00生放送)、ラジオ関西「松原タニシの生きる」(毎週月曜日19:30~20:00生放送)、Youtube、ニコニコ生放送「おちゅーんLIVE!」(毎週土曜日22:00~23:00生配信)、ニコニコ生放送「大島てる×松原タニシの事故物件ラボ」(毎月1回不定期生配信)など。

Twitter@tanishisuki

鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。
「鈴木光司×松原タニシ 恐怖夜行」(BSテレ東)期間限定放送中。

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