2025.12.26
【椎名誠さん×群ようこさん『続々 失踪願望。 病み上がり乾杯編』『ちゃぶ台ぐるぐる』刊行記念対談/前編】
こんなに長く使うペンネームになると思っていなかった
椎名 我が家のこともよく知っている群さんだから、今日はどんな話でもできると思って来たんだけど、一番聞きたかったのは目黒(考二)のことなんだ。俺は(訃報を聞いて)ものすごい悲しみで、しばらく茫然としていた。
群 そうですよねえ。
椎名 目黒との思い出話を書きたいと思ってはいたけれど、書けなかった。でもいろんな人が書いているのを読んで、そこで思い出したのは「群ようこ」というペンネームのこと。これは目黒がつけたんでしょう?
群 そうです。目黒さんからいただきました。
椎名 その時はどんな状況だったんですか?
群 最初の頃、「本の雑誌」の編集後記のページに事務員としての短いコラムを書かせていただいていた時は、本名でしたよね。ただ、外部の方からの(寄稿)依頼があった時に本名で書くのは抵抗があって。それで、何かペンネームを考えて欲しいと目黒さんにお願いしました。
椎名 あー、そうだったんですか。
群 当時、目黒さんが「群一郎」というペンネームで活動なさっていたので「では、この『群』を暖簾分けとしてあげよう」とおっしゃって。そして、目黒さんの初恋の人が「ようこ」さんだったそうで、それを合わせて「群ようこ」になりました。
椎名 そんな詳細は知らなかったなあ。
群 その時は作家になろうなんて考えてもいなかったですし、こんなに長く使うペンネームになると思っていなかったんです。お小遣い稼ぎになればいいかな、くらいの気持ちだったし、それほど重要なことだと考えていなかったです。
椎名 でも本名の木原(ひろみ)さんでコラムを書いていた頃から「書ける人だな」と思っていたし、目黒とその話をした記憶があるよ。
群 そうですか。
椎名 「どんどん書いてもらおう。(社内の書き手だと)原稿料を払わなくて済むから」という話もした(笑)。
群 それはあるでしょうね。私は当時、お金のことを担当していましたけれど、みなさんに支払う原稿料は本当に少額でしたから。現金で(安い額面を)出すと失礼だからと、何千円分かの図書券だったんですよね。そしたらある日、フリーランスの方から電話をもらって「すいません。図書券ではお米が買えないのでなんとかしてもらえませんか」と言われて。
椎名 覚えてるよ。いろんなことがあったなあ。でも原稿料を出す出さないの話は抜きにしても、目黒は「群さんは器用な人だからたくさん書けるようになる」と言っていたよ。
群 そうだったんですね。最初は入稿する前に目黒さんにお見せしていたんです。でも2ヶ月3ヶ月経つ頃には目黒さんもお忙しいのか「もう好きにしていいから!」と直されることはほとんどなかったですね。
椎名 目黒にアドバイスをもらったことはなかったの?
群 あまり記憶にないですね。そもそも物書きになるつもりはなかったので、目黒さんに「この先、大丈夫ですかね?」と相談したことはあります。確か「引き出し多いから大丈夫だよ」とおっしゃってくれて。あとは椎名さんに一度だけ「最近、原稿の質が落ちているから気をつけなさい」と言われました。
椎名 まったく覚えていないが、そんな偉そうなことを言ったのか。
群 私はあれで「心しなきゃな」と。

群さんの基本の部分はやっぱり昔から変わらない
椎名 デビュー作の『午前零時の玄米パン』(1984年/本の雑誌社)って誰がつけたタイトルなの?
群 私はタッチしてないです。
椎名 目黒がつけたのかなあ。
群 そうかもしれないですね。それか、「本の雑誌」にいた上原ゼンジ君か。
椎名 ああ、なるほど。いいタイトルで装丁も良かった。
群 装丁は多田進さんがやってくださって、柳生まち子さんが花弁の開きすぎたチューリップの絵を描いてくださって。
椎名 そうだったそうだった。豪華だねえ。
群 私が「本の雑誌」を辞める年に出したんですけれど、表紙にカバーが糊付けされた仮フランス装という装丁で、編集者がみんな「こんなカバーの替えのきかない本を出すのはすごい」とすごい驚いたのですが、目黒さんも椎名さんも「これでいいんだ!」とおっしゃってくれて。
椎名 二冊目のタイトルは何だっけ?
群 『別人「群ようこ」のできるまで』です。文藝春秋から出してもらいました。
椎名 いきなり大手からどーんと出たんだね。
群 ありがたかったです。でもそれはやっぱり「本の雑誌」にいたから出版社の方が読んでくださっていたので、その辺は本当に恵まれていました。
椎名 でも作家になるっていうのはある意味では別人になるってことだから、これもいいタイトルだったね。今回の『ちゃぶ台ぐるぐる』を読んでも思ったけれど、家族の話が多くあって、群さんの基本の部分はやっぱり昔から変わらないんだよね。それがそのまま大きくなっていった安心感があった。
群 「本の雑誌」に書かせていただいていたコラムも、子どもの頃の話が多かったはずです。
椎名 お母さんとの話もいいけれど、兄弟がいるでしょ?
群 はい、弟がいます。
椎名 家族と喧嘩しながらもむつみあっている感じがすごくいい。群さんは佐藤愛子さんみたいになっていくんじゃないかな。自分を持っていてダメなものは敢然と叱る。そして多くの人に愛される。そういうキャラクターになって欲しいな。
群 いえいえ、スケールが違います。佐藤さんにはお目にかかったことがあるんですが、あの方はもう大変なもので、私は超小物ですから。
椎名 小物とは思わないけど、生活の近くにある面白さを巧みに拾っているよね。
群 世の中の大きな動きにあんまり興味がないのかもしれません。新首相が誕生したニュースをテレビでやっていても「この服、どこで買ったのかな」とかそういうことが気になってしまう。
椎名 自分の背丈で物を言う。大言壮語をしない。それは読む人にとっても安心感があると思う。お茶や着物などの趣味も、堅実で安心感がありますよ。
群 ギャンブルで身を持ち崩すとか、そういうのもやりたいんですけど、なかなかそこまでいかないですね。
椎名 また目黒の話になっちゃうけれど、彼はギャンブル、特に競馬界では有名だった。競馬関係の原稿を書く時に使っていた「藤代三郎」と書評の時に使っていた「北上次郎」が同一人物と知らない人も意外と多いからね。もちろん群一郎も知らない。
群 群は私がいただいちゃいましたし。
椎名 他にいないし、いい名前だよね。これからも「群代表」として頑張ってください。しかし、話してると感動と懐かしさで涙と鼻水が出てくるよ。もうちょっと昔の話をしよう。
後編に続く
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