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紫式部vs.樋口一葉~結局どちらが超一流? 時空を超えて天才女流作家の人生を徹底比較してみた

紫式部と樋口一葉。生きた時代こそ違えど、その類まれな才能で後世に残る作品を生み出した二人の女流作家。でも、『源氏物語』や『たけくらべ』など、その代表作は知っていても、作者である彼女たちの詳しい人物像については正直よくわからない……。そんな人も少なくないのでは?

そこで今回は、書籍『東大教授も惚れる!  日本史 アッパレな女たち』の中から、「ベストセラー作家対決 紫式部vs.樋口一葉」を抜粋してご紹介します。本書は、東大・史料編纂所の本郷和人教授が、日本史のさまざまな時代を彩ってきた女性たちの活躍をバトル形式で楽しく解説する1冊です。
あえて異なる時代を生きた歴史上の人物同士を“対決”させることで、それぞれの人間らしさや人生ストーリーがリアルに浮かび上がってきます。
本郷教授が取り上げた女性たちを、人気漫画家まんきつさんがイラストでユーモアたっぷりに描いているのも必見!

紫式部vs.樋口一葉……二人の人生にはどのような共通点や違いがあったのでしょうか。
時空を超えた女流ベストセラー対決、本郷教授の判定は果たしていかに……?

(構成・文/よみタイ編集部)

王朝から明治へ。女流作家のビッグな系譜

 紫式部むらさきしきぶは、藤原道長ふじわらのみちながの娘、彰子しょうしに仕えていた人。
 お父さんが越前えちぜんの国司に任官したときにすっごく喜んだといいますから、中央の官職にはつけないレベルの中流貴族の出身で、だんなさんもだいぶ年上の、あまりさえない感じの人。だから彼女自身の人生は決して派手じゃなかった。むしろ「地味子」さんだったはずです。そんな彼女の頭の中にあった妄想と願望がぜんぶ『源氏げんじ物語』に反映されていると思うと、これは相当やばい系です。

 主人公の光源氏ひかるげんじは手当たり次第に女の人と関係を持つ。彼は超一流の貴族で、ガチ上級国民。である以上、少しは民の暮らしのことも考えてくれよと思うんだけど、政治的な関心がまるっと抜け落ちていて、頭にあるのはひたすら女性のことばかり。
 あるときは母親の面影をしのんで、藤壺ふじつぼの宮のところへ。今でいえばマザコンです。そして紫式部の名前の由来になったヒロイン、紫の上を幼いころから育てて妻にしていますから、現代ならばロリコンとして逮捕確定だ。中でもいちばんびっくりするのは、源典侍げんないしのすけという女性との件。彼女は色好みといわれていて、これは当時、決して「ビッチ」ではなく、むしろ「いい感じ」とされているのですが、その色好みの源典侍が17、8歳の光源氏と関係を結ぶ。で、そのとき彼女は57歳なんですよ。「人生50年時代」の57歳ですから、今の感覚だとかなりのご高齢。つまり光源氏は、マザコンであり、ロリコンでもあり、超熟女もいける人だった。そんな彼が主人公で、しかも出てくる話は不倫ばかりですから、日本文化の粋といわれる『源氏物語』は、なかなかすさまじい物語なんです。

©まんきつ/集英社
©まんきつ/集英社

 ちょっと気になるのは、作中、光源氏が藤壺の宮と関係を持って、それで生まれた皇子が、次の天皇になる。元は皇族といっても光源氏は臣籍降下しているから、その点では一般人なんです。その彼の子が密かに天皇になってしまうというストーリー展開は、これは大変な問題のはず。しかしそこはあまり突っ込まれることなく、教養ある女性たちに「なんて素敵なロマンスなのでしょう」と大ウケにウケて、むさぼり読まれていた。「万世一系ばんせいいっけいといっても、当時はあまりこだわってなかったの?」と心配になってしまいます。

 それはともかく、人間と人間との感情豊かな交わりを描かせるとやっぱり、古典では右に出る者はいない。日本文学の最高峰であるということですね。
 ひとつ、つけくわえると「玉鬘たまかずら」の章に菊池という、今の熊本の豪族が出てくるのですが、彼は「でっぷりと太っているのはなかなかいいけど」と描写されます。しかし振る舞いはやはり田舎者だ、と言われてしまうのですが、おっさんでデブであること自体は、当時むしろイケメンの条件なんですね。一方、平安美人については「引目鉤鼻ひきめかぎはな」という言葉があり、線みたいな目、あるかないかくらいの鼻の人が美しいとされた。そもそも当時の女性は、檜扇ひおうぎという扇で顔を隠していて、美人の条件は髪の長さと艶。だから上流階級の女性は生まれてから髪を切ることがなく、洗うのは家来総出で月に一度くらい。ファブリーズもない時代ですから、お香を焚いて匂いを抑えていた。『源氏物語』の情景を思い描くとき、今どきの美男美女とはかなり違うという、このへんの事情を頭に置いておくと、よりディープに作品の世界観を楽しめるかもしれません。

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新刊紹介

本郷和人

本郷和人(ほんごう・かずと)
1960年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。
東京大学・同大学院にて石井進氏、五味文彦氏に師事し、日本中世史を学ぶ。著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』『承久の乱 日本史のターニングポイント』『戦いの日本史』『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』、監修に『やばい日本史』など多数。
ドラマや漫画、アニメの時代考証にも携わり、識者としてはもちろん、日本史をわかりやすくおもしろく解説してくれる第一人者としても、各方面から引っ張りだこの存在。

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