2023.3.5
不機嫌は脳波によって伝染する?──慶應義塾大学教授・満倉靖恵さんはどのように感情を「定量化」したのか
不機嫌にバリアを張る方法
──「納得感を持って自分で行動を起こす」手助けを、というのがこの本をお書きになった理由の1つとのことですが、それで一般向けの新書としてお書きになったのですね。
満倉 一緒にいる人が不機嫌だと自分の気持ちも落ちていくということを分かっていただきたかった。逆に言うと、不機嫌な人が身近にいないだけで、その人はハッピーになる可能性が高いんです。だから我慢しないで不機嫌な人とは距離を取ったほうがいい。自分はどうしたいのかがなかなかわからず、選択できない人が多いと日頃から感じているので、選択の後押しになればいいなと思います。
──ネガティブな感情は伝わりやすいが、ポジティブな感情は伝わりにくいとのことですが、どうして人間の脳はそうなっているのでしょうか。
満倉 難しい質問ですね。1つ考えられるのは、人間は動物なので、危険を察知する能力が高いということです。長く続いた狩猟採集時代を考えれば、「楽しい」とか「嬉しい」といった感情よりも、危険に結びつく「不機嫌」を先に察知する能力が必要とされてきたんだと思います。
──満倉さんも近くに不機嫌な人がいる場合はやはり影響を受けますか。
満倉 影響を受けないようになりましたね。昔は人の目を気にするタイプだったんですよ。指導教員が機嫌悪そうだったりすると萎縮していたんですけど、「不機嫌は伝染るんだ」と気づいてからは、バリアを張るようにしました。バリアというのは、こうすれば他人の脳波の影響を受けないという自分ルールですね。たとえば、この香りを嗅げば影響を遮断できるんだ、とか。
──満倉さんご自身の人生も、研究によってプラスの方向に。
満倉 変わりました。とにかくゴキゲンでいることは重要。不機嫌な人がいたら逃げるのも選択の1つです。もう昭和ではないので、その場で我慢する必要はありません。不機嫌な人に振り回されてはいけない。それがこの本に込めたメッセージです。
【プロフィール】
(みつくら・やすえ)
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム取締役CTO/株式会社イーライフ取締役CTO/博士(工学)/博士(医学)
生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家。