2022.4.5
【加藤直人×藤井太洋 メタバース徹底対談】起業したい人がフィクションを書くべき理由
ディスコードとメタバース
藤井 メタバースというとVRゴーグルをかぶってバーチャル空間に入るというイメージがあると思うんですが、加藤さんはゴーグルで入る世界以外についてもしっかり書かれているところもよかったですね。特にDiscord(ディスコード:無料ボイスチャットアプリ)のメタバース性を指摘されていることに共感しました。Discordは使っている人はすごくたくさんいるんですけど、あまりメディアに登場しないんですよね。
加藤 そうなんですよ。「メタバース時代っていつ来るんですか」と年配の方から質問されることがあるんですが、「あなたが知らないだけで、十代とか二十代はゲームしながらDiscordをつなぎっぱなしにしていますよ。それってメタバースがすでに一部実現しているってことなんです」と答えています。
藤井 Discordはゲームユーザーの間でよく使われていて、ゲームをしながら会話をしたりするコミュニケーションツールなんですけど、最近はゲーム以外にも使われるようになっています。リモートワークをしている間中、Discordをつなぎっぱなしにして部屋のスピーカーをオンにしているという話もあります。若いデザイナーのチームが10人ぐらいDiscordにログインしたまま作業しているとか。
加藤 オンラインでつながっていることが当たり前なんですよね。リアルタイムでつながっていれば物理的に同じ部屋にいなくても、同じ体験ができる。clusterも作業部屋みたいな空間をユーザーに提供しています。今回出した本に『さよならアトムの時代』という副題をつけたのは、メタバースが実現することで、僕たちがアトム(原子)、つまり物理的な制約から自由になるという意味を込めたからなんです。
藤井 それこそメタバースがもたらす大きな変化ですよね。パソコンやタブレットで仕事をしていると、仕事をしているときに見ている世界は画面しかない。ネットにつながっていたら頭の中はこの世界を越えて向こうの世界にある。
加藤 その通りです。
藤井 それと個人的に興味があるのは、自動的に発生してしまうメタバース――メタバースの中でメタバースを作るようなことが始まるんじゃないかな。
GitHub Actions(ギットハブ・アクションズ)っていう、ソフトウェア開発を自動化するツールがあるんですけど、ああいう感じでメタバースができていくと面白い。GitHubというのはソフトウェア開発のプラットフォームなんですけど、サーバーを借りて、仮想コンピュータを立ち上げて、開発環境を整えて、サービスを行うサーバー一式がぽこっと生まれる、なんてことが可能になっているんです。ちなみに私は今、推敲用のゲラはGitHubでつくって共有し、そこに編集者からのチェックが入るという仕組みで仕事をしています。
加藤 執筆・校正作業をオンライン上で完結させているんですね。
藤井 そうです。編集者との「ここは生かして」「ここはカット」みたいなやりとりをGitHubでしています。
そんなGitHubと同じように、メタバースの中でメタバースをつくり、その中で更に何かをつくる、みたいなことができると面白いんじゃないかと思いますね。
加藤 メタバースの入れ子構造ですね。メタ・メタバース。面白そうです。
藤井 部屋をつくる感覚でどんどんメタバースをつくっていけば、それこそ宇宙の泡構造(石鹸の泡がくっつきあう様子に似ている銀河の分布の構造)と同じような感じになりますよね。メタバースの泡構造ができていくと。
加藤 無限に広がっていく。メタバースのその先にはそういう可能性もありますね。ワクワクしてきました。
(本対談は、小説すばる2022年4月号から転載したものです)
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