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日本の歌詞は恋愛至上主義?フィクション化する恋愛と都市文化【児玉雨子×三宅香帆 古典対談】

社会の抑圧をかわしながら、言葉を綴る

三宅 江戸時代は女性の書き手がほぼいなくて、男性の書き手ばかりですが、そのあたりに違和感を覚えることはないんですか?

児玉 女性作家が活躍できなかった時代そのものには批判的ですが、男性の中でかなり意見が割れていることが面白いと思いますね。たとえば「忠臣蔵」みたいな仇討モノの良さが、私は本当に分からないんです。面倒くさい話としか感じない。でも江戸時代にも同じように感じていた書き手がいて、お上から「泣ける仇討モノを書け」と言われても「いやだなあ、めんどいなあ」と言って、イヤイヤ結末だけ忠義要素を付け足していた。そういうことをやっていた人が男性の中にいたことがすごく良いなと。

三宅 敵討ち、みんな好きですよねえ。なんであんなに好きなんだろう。でもたしかに言われてみれば、江戸文化の筆頭と言われそうな、『忠臣蔵』も『南総里見八犬伝』も『江戸POP道中文字栗毛』のラインナップに入っていないですね! まあ『忠臣蔵』にしろ『南総里見八犬伝』にしろ、「お家のために」「忠義のために」というざっくりした概念で動いている男性たちの話ですから、近世文芸の固有名詞に満ちた都会文学とは真逆に思えます。

児玉 都会の文学ではないなあ、粋とかどうでもいいんかな、と感じちゃいますね。

三宅 いきなり児玉さんの『##NAME##』の話をするのですが、私はこの小説の細かい描写が好きなんです。たとえば前髪を固めようとするんだけど、固め切らなくて落ちてきた場面。ジュニアアイドルを辞めると決めて食べたパンの種類。私は女子って、そういう細かい積み重ねの集積のような存在に思えるんです。微妙にニュアンスの違うネイルの色を決めて、爪からはみ出さないように塗って、まつげを一本一本マスカラつけて、みたいな。

児玉 うわあ、嬉しい。

三宅 一方で『忠臣蔵』を読むと、「なんで男性はこんな忠義みたいな抽象的でざっくりした概念で生きているんだ? きみの細かいまつげと明日の献立のことを考えろ!」という気持ちになってくるんです(笑)。

児玉 それすっごく分かります。でもそういう意味では、式亭三馬の『浮世風呂』はめちゃくちゃ女性の細かい化粧の描写をしていて感動したので、ぜひ読んでほしい。なんでこれを男性が分かるの? と思うくらい、おばあちゃんの書き方が上手かったり、化粧の描写や、会話のニュアンスが、現代の女性が読んでも楽しめる会話劇でした。そして上方の女の子と江戸っ子の女の子がバトルをするけれど、最後には「ふん、おまえ分かってるじゃん」と仲良くなって終わる。

三宅 いい話! 面白そう!

児玉 女の敵は女でもなく、今のシスターフッドともちょっと違うけど、ふわっとした関係性で終わっているのがまた良い。

三宅 しかし寛政の改革以降の本なのに、全然『忠臣蔵』的なイデオロギーに従っていない(笑)。

児玉 従ってるふりして、全く従ってない。近世文芸は、いかにお上の言うことに従っているふりして裏でふざけられるかチキンレースしてる。そこが面白い。

三宅 それが結局、江戸文化の粋を生み出しているのかも。お上の言うことをかわしながら、自分たちの美意識を表現する文芸。

児玉 江戸以降の文学は、政府や社会的圧力に対して、反発するか、順応するかしかなくなっている気がします。私は割と江戸時代の作家たちの、「上の言うことは絶対聞きたくないんだけど、並べと言われたら一応並ぶか~でも裏では好きなことしよっと」という、小学生みたいなスタンスが好きなんです。

三宅 それは文学の魅力そのものですよね。文学は、社会の抑圧を受けるからこそ、さらに面白くなるんだと思います。今も昔も。

(※この対談は、2023年7月24日に収録し、「すばる」2023年10月号に掲載したものです)

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三宅香帆

みやけ・かほ●文筆家・批評家
作家・書評家。1994年高知県生れ。大学院時代の専門は万葉集。著書に『妄想とツッコミでよむ万葉集』『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文』『女の子の謎を解く』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』など。

児玉雨子

こだま・あめこ
作詞家、小説家。1993年生まれ。神奈川県出身。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。2021年『誰にも奪われたくない/凸撃』で小説家デビュー。2023年『##NAME##』が第169回芥川賞候補作となる。

Twitter @kodamameko

(写真:玉井美世子)

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