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死去の報道から1年。52代横綱・北の富士勝昭さんが上京した日に生まれた不思議な縁 【藤井康生『粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代』試し読み】

貴重な歴史の証言を残したい

人生あっという間です。私も69年近く生きてきました。その人生の中で、北の富士さんほどの人物と出会ったことはありません。
北の富士さんの懐の深さ、人間力、そしてまわりの人たちを惹きつける魅力、心を動かされることの連続でした。
北海道での少年時代、大相撲の世界に飛び込んでからの下積み時代、そして出世を遂げていく時代、横綱時代、親方時代、NHKの解説者としての時代、その時々で出会った人たちとの交流や人脈が、北の富士さんという人間を膨らませてきたのは間違いありません。

九重親方時代に13年、NHKの専属解説者として26年、合わせて40年近くにわたり、お付き合いをいただきました。
その中で、いつの日からか私の身に付いた習慣があります。北の富士さんの口から飛び出す興味深い経験談や思い出話、笑い話を、忘れないうちに書き留めておくことでした。
これこそ大相撲の「貴重な歴史の証言」と考えたのだと思います。
トークショーや雑誌に依頼されたロングインタビュー。そして、大相撲中継の中での昔話。プライベートでの酔話に裏話。北の富士さんが語った数々の興味深い話を、史実とともに重ねてみます。
北の富士さんの言葉を書き留めてきたと言ってもメモの蓄積です。一冊の本にすることなど容易ではありません。
しかし、自分自身が大相撲の世界でお世話になってきた集大成として、また、北の富士さんへの追悼の意味でも、「北の富士語録」を形として残しておきたいと考えました。

お断りしておきます。メモを文字にします。いえ、メモだけではなく、自分自身の記憶に頼る部分もあります。一字一句すべてを、北の富士さんの言葉通りに書き起こすことは不可能です。それでも、北の富士さんの語り口調を大切にしながら、できる限り北の富士さんの声が甦ってくるような表現にしたいと思います。
加えて、北の富士さんを誰よりもご存じの方々にも、証言者として話を聞きました。

好角家のみなさんから、大相撲に興味を抱き始めたみなさんまで、さらには大相撲とは縁のない方にも楽しんでいただけることを願っています。
そして、北の富士さんに今度お会いした時、こんなふうに言ってもらえるような一冊をめざします。

「俺、そんなこと言ったっけ? 何の役にも立たない話ばかりしたねえ」

北の富士さんの妹夫妻が営む、山形県酒田市のちゃんこ鍋店「北の富士」にも取材に伺いました。(写真提供/藤井康生)
北の富士さんの妹夫妻が営む、山形県酒田市のちゃんこ鍋店「北の富士」にも取材に伺いました。(写真提供/藤井康生)

以下、本編1章以降に続く。続きはぜひ単行本でお楽しみください

『粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代』刊行特集一覧

【「はじめに」試し読み】 死去の報道から1年。52代横綱・北の富士勝昭さんが上京した日に生まれた不思議な縁

11月26日発売。舞の海秀平さんとの特別対談も収録

2024年11月12日、82歳での別れから1年。
「第52代横綱」として、「千代の富士と北勝海、2人の名横綱を育てた九重親方」として、「NHK大相撲中継の名解説者」として、昭和・平成・令和と3代にわたり、土俵と人を愛し続けた北の富士勝昭。

大相撲中継で約25年間タッグを組んだ、元NHKアナウンサーである著者が書き残していた取材メモや資料、放送でのやりとりやインタビューなどを中心に、妹さん、親友、行きつけの居酒屋の店主など、素顔の故人を知る人物にも新規取材。「昭和の粋人」、北の富士勝昭の魅力あふれる生涯と言葉を、書き残すノンフィクション。

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藤井康生

ふじい・やすお/昭和32年1月7日生まれ、岡山県倉敷市出身。岡山朝日高校、中央大学法学部を経て、昭和54年4月、日本放送協会(NHK)入局。43年間のアナウンサー職を経て、令和4年1月、NHKを退局。大相撲は昭和 59年七月場所から約 38年間担当した。現在はフリーアナウンサーとして「ABEMA大相撲 LIVE」で実況を担当。公益財団法人日本相撲協会記者クラブ会友、JRA日本中央競馬会記者クラブ会友など多方面で活躍。
著書に『土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社)がある。

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