2022.10.15
初エッセイ『優しい地獄』が話題沸騰! なぜイリナ・グリゴレさんは日本で獅子舞の研究をするのか?
社会主義とは何だったのかという問い
──いま、青森に住んでらっしゃっていますよね。何年ぐらいお住まいなんですか。
イリナ 7年になりますね。自分としては長いほうです。私、本当にノマドなんです。多分、そろそろ動きたくなると思います。
でも、青森は面白い。本の中でもちょっぴり書いたんですけど、人が本当に優しいんですよね。物々交換がいまでもあるし、野菜を玄関前に届けてくれたりする。いま、調査している獅子舞の団体に、女性の会長がいるんですが、彼女はリンゴ畑を一人で世話しています。私はリンゴ畑の手伝いもしながらお話を聞いて、映像を撮って。恵まれているとしか思えないような環境で調査しているんですよね。
──最後にもう一つ。今年の3月に、ウェブで論文(「社会主義政権下における投獄された女性の身体」〈-oidオイド〉)を発表されましたね。ルーマニアが社会主義国だった時に、秘密警察(セクリターテ)が「国家の敵」と認定した人々をどう抑圧したかを、刑務所、ジェンダーなどの観点から実証的に論じています。獅子舞の研究と平行して、社会主義とは何だったのかを調査研究されるお仕事もされていくのでしょうか。
イリナ そうですね。社会主義とは何だったのかという問いに対する答えは、自分の中でもずっと知りたいことです。ポスト社会主義的な研究はたくさんあるんですけど、私もできる限り自分で調べて書いてみたい。なぜあんな政治体制ができてしまったのだろう。
私は社会主義は病気のようなものだと思っています。世界中に広まった伝染病のようなもので、誤った何かだったんでしょう。こうやって論文を書くなど、いろんな形で社会主義がどんなに非人間的な体制だったかを伝えていきたいです。
──『優しい地獄』の内容は盛りだくさんですが、イリナさんの視点がはっきりしているためとても読みやすい。文化、政治、生活について考えるきっかけになると思います。たくさんの人に届いてほしい本です。
イリナ いろんなことをやり過ぎているかもしれないですが、ここから始めたいですね。もうこれで終わりじゃなくて、これからどんどんいろんな活動をしたいです。
【プロフィール】
イリナ・グリゴレ(Irina Grigore)
1984年ルーマニア生まれ。2006年に日本に留学し2007年に獅子舞の調査をはじめる。一時帰国後2009年に国費留学生として来日。弘前大学大学院修士課程修了後、東京大学大学院博士課程に入学。主な研究テーマ北東北の獅子舞、日本で生活して女性の身体とジェンダーに関する映像人類学的研究。
現在はオートエスノグラフィー、日本における移民の研究を始めている。