2024.3.7
【稲田俊輔さん×阿古真理さん『異国の味』刊行記念特別対談】 ブームとトレンドで振り返る、昭和・平成・令和の外国料理事情
東京の味は「おいしくない」と思った
阿古 本の最後の章に「東京エスニック」とありますが、そもそも東京エスニックとは何なんでしょう。
稲田 これは決して東京にあるエスニックレストラン、エスニック料理という意味じゃなくて、東京の味そのものがエスニックであると。少なくとも自分から見たときに、東京の料理、東京の味というものをエスニックとして捉えたことで、腑に落ちたという体験がありました。阿古さんも関西ご出身だから同じだと思うんですけど、自分も九州から東京に出てきて、やっぱり東京の味って衝撃だったんですよね。
これ、ぶっちゃけて言うと、「おいしくない」と思いました、素直に。なんでこんな味付けなんだろうっていうふうに。一応、自分がよく知ってる系統の和食とか日本料理とかの味なわけじゃないですか。よく知ってるはずで、何と何を使って作られて、どうやって味付けしてるかも大体、わかるんですよ。そこまではわかるんだけど、なんでそこでこういうバランスになるんだろうみたいなことを思ったんです。
阿古 和食ですか? 煮物とか?
稲田 一番衝撃的だったのはうなぎかな。なんでこんなにふわふわにしちゃうの? 歯ごたえなくなっちゃうの?って思いましたね。ほぼしょうゆの味だし。でも同時に、池波正太郎さんとかが書いている、東京の昔ながらの天丼はこういうものである、そばとはこういうものである、みたいなものを耳学問として読んできてて。
阿古 『むかしの味』っていうエッセイ、ありますよね。
稲田 『むかしの味』、そうです、まさに。池波さんに限らず、東京の方が東京の食べ物について書いてるものって膨大にあるじゃないですか。そういうものを読んできて、憧れもあったんですね。憧れがあったから、食べて、味に対しては違和感を持つんだけど、でもずっと憧れてきたものでもあるし、あんなに尊敬する文豪たちがあれだけ褒めてるんだから、これはいいものに違いないから理解したい……みたいに思う。そのアンビバレントなものがあって、よくわからないけど好きになりたいって思って挑戦するみたいな感じが、それこそタイ料理とか南インド料理に対しての過去の自分の姿勢と完全に同じだなというふうに思ったんですね。
阿古 外国料理なんだ。
稲田 外国料理なんですよ、そういう意味で。まさに異国の味であり、逆に言うと自分は東京という異国に住む異人であるみたいな。
阿古 東京にもローカル文化は山のように本当はあるんですよね。その入り口がこの『異国の味』の最後に待っているという。
稲田 外国の話をずっとしてきて、最後の最後に内なる外国に着地する、みたいな。最も身近な外国に関して異邦人の目線で触れているという内容になりますので。あと、軽く宣伝をしておくと、この本の終章である「東京エスニック」というところから、引き続き「よみタイ」で、今度は日本各地の異国の味といいますか、話の尽きない西と東の味の違いみたいなものに関して書き始めました。それについてもぜひいつか、阿古さんと一緒にお話をさせていただきたいです。
阿古 ぜひお願いします。
『異国の味』好評発売中!
日本ほど、外国料理をありがたがる国はない!
なぜ「現地風の店」が出店すると、これほど日本人は喜ぶのか。
博覧強記の料理人・イナダシュンスケが、中華・フレンチ・イタリアンにタイ・インド料理ほか「異国の味」の魅力に迫るエッセイ。
「よみタイ」での人気連載に、書きおろし「東京エスニック編」を加えた全10章。
詳細はこちらから!