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【稲田俊輔さん×阿古真理さん『異国の味』刊行記念特別対談】 ブームとトレンドで振り返る、昭和・平成・令和の外国料理事情

東京の味は「おいしくない」と思った

阿古 本の最後の章に「東京エスニック」とありますが、そもそも東京エスニックとは何なんでしょう。

稲田 これは決して東京にあるエスニックレストラン、エスニック料理という意味じゃなくて、東京の味そのものがエスニックであると。少なくとも自分から見たときに、東京の料理、東京の味というものをエスニックとして捉えたことで、腑に落ちたという体験がありました。阿古さんも関西ご出身だから同じだと思うんですけど、自分も九州から東京に出てきて、やっぱり東京の味って衝撃だったんですよね。
これ、ぶっちゃけて言うと、「おいしくない」と思いました、素直に。なんでこんな味付けなんだろうっていうふうに。一応、自分がよく知ってる系統の和食とか日本料理とかの味なわけじゃないですか。よく知ってるはずで、何と何を使って作られて、どうやって味付けしてるかも大体、わかるんですよ。そこまではわかるんだけど、なんでそこでこういうバランスになるんだろうみたいなことを思ったんです。

阿古 和食ですか? 煮物とか?

稲田 一番衝撃的だったのはうなぎかな。なんでこんなにふわふわにしちゃうの? 歯ごたえなくなっちゃうの?って思いましたね。ほぼしょうゆの味だし。でも同時に、池波正太郎さんとかが書いている、東京の昔ながらの天丼はこういうものである、そばとはこういうものである、みたいなものを耳学問として読んできてて。

阿古 『むかしの味』っていうエッセイ、ありますよね。

稲田 『むかしの味』、そうです、まさに。池波さんに限らず、東京の方が東京の食べ物について書いてるものって膨大にあるじゃないですか。そういうものを読んできて、憧れもあったんですね。憧れがあったから、食べて、味に対しては違和感を持つんだけど、でもずっと憧れてきたものでもあるし、あんなに尊敬する文豪たちがあれだけ褒めてるんだから、これはいいものに違いないから理解したい……みたいに思う。そのアンビバレントなものがあって、よくわからないけど好きになりたいって思って挑戦するみたいな感じが、それこそタイ料理とか南インド料理に対しての過去の自分の姿勢と完全に同じだなというふうに思ったんですね。

阿古 外国料理なんだ。

稲田 外国料理なんですよ、そういう意味で。まさに異国の味であり、逆に言うと自分は東京という異国に住む異人であるみたいな。

阿古 東京にもローカル文化は山のように本当はあるんですよね。その入り口がこの『異国の味』の最後に待っているという。

稲田 外国の話をずっとしてきて、最後の最後に内なる外国に着地する、みたいな。最も身近な外国に関して異邦人の目線で触れているという内容になりますので。あと、軽く宣伝をしておくと、この本の終章である「東京エスニック」というところから、引き続き「よみタイ」で、今度は日本各地の異国の味といいますか、話の尽きない西と東の味の違いみたいなものに関して書き始めました。それについてもぜひいつか、阿古さんと一緒にお話をさせていただきたいです。

阿古 ぜひお願いします。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)、『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)など。
近刊は『異国の味』(集英社)、『料理人という仕事』(筑摩書房)、『現代調理道具論』(講談社)、『ミニマル料理「和」』(柴田書店)。

阿古真理

あこ・まり
作家・生活史研究家。くらし文化研究所主宰。1968年兵庫県生まれ。食の文化史およびトレンド、家事、キッチンなど暮らしの研究を行う。
『小林カツ代と栗原はるみ』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『家事は大変って気づきましたか?』『日本外食全史』『大胆推理! ケンミン食のなぜ』『おいしい食の流行史』など著書多数。
2023年、第7回食生活ジャーナリスト大賞ジャーナリズム部門受賞。
最新刊は『お金、衣食住、防犯が全てわかる 今さら聞けないひとり暮らしの超基本』(朝日新聞出版)。

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