2021.7.22
僕にだけ聞こえてくる音
バアン!
自分の部屋で寝転がっていると、またあの音がした。
僕の耳元に響く、なにか大きなものがはじけ飛ぶような音。
「ああ、もう……」
うんざりしながら漫画を脇に置いて、瞼をぎゅっと閉じる。この音が鳴った後は、きまってアレが見えてしまうから。
この現象が最初に起きたのは、一か月前の夜。その時、なにも知らなかった僕は、アレをしっかり見てしまった。
半狂乱になって部屋を飛び出し、母親と姉を叩き起こした。泣きじゃくりながら自分の聞いた音と見たものを必死に説明していった。
それなのに、全然とりあってくれなかった。
「それはね、気のせいだよ、寝ぼけたんだよ」と、うっすら笑いながらごまかすだけ。
もちろんそれ一度きりなら悪い夢を見たんだと考える。
でもそれから毎日、毎日、一日一度は「バアン!」という破裂音が僕のすぐそばで鳴るのだ。それに続いて、アレが出てくるのだ。でもいくらそのことを母や姉に主張しても、向こうは「気のせい、気のせい」の一点張り。
二人とも冷たい訳ではない。どちらかといえば、かなり優しい方だろう。でも同時に、変なことを言う僕を扱いづらそうにしている感じもあって、それがなんだかとても嫌だ。
すっかりあきらめた僕は、四日目からもう家族に報告することをやめた。そして音が鳴るたび目を閉じるようにした。
今夜だってそうだ。きつくつむった瞼の向こうに、アレの息づかいを感じる。しばらく我慢しているうちに気配は消える。そこで目を開ければ、いつもの部屋が広がっているだけ。
そのはずだったのに。
アレはまだ、消えていなかった。僕のすぐ前で、僕の瞳を覗き込んでいた。
僕の目と、アレの逆さまになった目が合う。
頭が下になった男は、ぴたりと空中に固まっている。そして次の瞬間。
バアン!