2021.8.8
お店では見せない、風俗嬢たちの本音とは? 現役風俗嬢作家・長谷川瞳が読む『限界風俗嬢』
自分の話が長くなってしまったので本題に戻ろう。本書でとても好感を抱いた女性がいる。それはセックスレスの人妻、ハルカだ。
ハルカは明るい。そうして年齢もわたしより上だがとても親近感を感じさせてくれる。バスガイドからホストの彼氏との同棲、そうして彼氏からのアドバイスを受け風俗嬢となる。
とにかくまっすぐに彼氏が好きなハルカはホストに行くためにヘルスでの仕事を一生懸命にこなす。
あきらかにはめられている。と感じる読者もいるだろう。実際、太客としてはめられている嬢を何人も目のあたりにしてきた。しかしハルカの彼氏はハルカを陥れてやろうと画策したわけではないとわたしは感じた。
ハルカと、ホストの彼氏との関係は七年も続く。ホストの彼氏は楽をしたい人だったのだろうと想像する。そうしてハルカのこともきちんと好きだったのだ。七年という長い春を終えホストの彼氏と別れたハルカは、一度は堅気になろうとするも、再び風俗の世界に戻り、今の伴侶と出会う。
伴侶とはセックスが合わない。壊滅的に合わない。
わたし自身、実はプライベートで付き合った彼氏とのセックスで「イッた」ことがない。しかし情があるがゆえに離れられなかった。現在、彼氏もいない歴も長くなり性の悦びは仕事で解消している。同じようにそのことを話すハルカにとても共感を覚えた。
「風俗」であっても、人と人との繋がりであることは変わらない
その後も次々に登場する個性的な女の子たちに圧倒されていく。レズビアンのSM嬢や妊婦風俗嬢。余談だが風俗業界にレズビアンの子は珍しくない。あくまで仕事と割り切っているので男性といたすのもあまり苦ではないと本人たちから聞いたことがある。
そういえば妊婦風俗嬢のあたりから作中にコロナが登場してくるが、わたしが知っている限りコロナが流行りだした当時、風俗嬢やお店は決してコロナを軽視していなかったように思える。働かなくてはならない事情があったり、お店のことを慮って怯えながらも出勤していた子たちの姿が記憶に新しい。
ラストの章のアザミは始まりからかなりヘビィだった。法に触れる薬物、DV、そこから逃げるようにしてキャリーバッグ一つでソープに面接に行き、そうしてバーで出会ったSMクラブのママにスカウトされてSMの世界に。
アザミの家庭環境もかなりのもので、父は盗撮好き。母はそこで女の部分を出してくる。こうなってくると女の部分を出す母=風俗嬢に強い関わりがあるとさえ思えてしまう。
アザミはSMショーでライトを浴びながら恍惚を感じる。
ここにも強く共感を覚えた。AV嬢だった時代は大勢の前でカメラが回っているからこそできたプレイがたくさんあった。
本作を読み終えて、やはりまだ多いのだなと感じるのは風俗=「汚れた」というフレーズ。
映画や小説にもよく登場するし、わたしも若いころ好きだった人に「汚い」と言われて泣いたりもした。
しかしながら真心を持ってお客様との関係を築いていけば、汚くなんかない。
風俗だろうがどこだろうが人間同士が出会っているのだからこれもご縁なのだと現在は本気でそう感じている。
著者である小野さんにお会いしたことはないが本作とあとがきを読み終え、小野さんはとても優しい方なのだろうとの印象を受けた。
彼女たちが時を経ても小野さんのインタビューを受けていることでそれがよく伝わってくる。ギャラが出ても嫌な人のインタビューを何度も受けたいとは思えないだろう。
この先、小野さんがどんな風俗の世界をわたしたちに見せてくれるのかをとても楽しみにしている。
(文・長谷川瞳)
『限界風俗嬢』好評発売中!
過去の傷を薄めるため……。
「してくれる」相手が欲しい……。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライター・小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。
著者が20年以上にわたる風俗取材で出会った風俗嬢たちのライフヒストリーを通して、現代社会で女性たちが抱えている「生と性」の現実を浮き彫りにするノンフィクション。
書籍『限界風俗嬢』の詳細はこちらから。