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まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの

まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの

若者たちよ、「そのままでいいんだよ」と 言われたい?

酒井 私たち世代は、比較的暮らしが平穏だったせいか、“世の中を変えなくては”という思いがあまりない気がするんです。若い頃の部活などでも、集団主義を植え付けられたりして、「意見」がなくても、生きてくることができた。今の若者を見ると、アスリートでも「自分で考える」と言う風潮が強まってきていますね。

浜田 意見がある人はあるけれど、そういう人ばかりではないかも。特に政治的な問題の場合は。

酒井 以前SEALDs(シールズ・自由と民主主義のための学生緊急行動)についての本を読んだとき「シールズの中でも女性は黙りがちなんだな」と感じたことがあります。今から50年ほど前の大学紛争のときも、主に女子学生は男子学生の傷の手当てといった女子マネ的な役割を担っていた、という話を思い出しました。

浜田 雑誌「SPA!」の問題や#MeToo運動の高まりを見ると、意見を言う若い女性が増えてきたのを感じます。新しいフェミニズムが生まれてきている、と。ただ驚いたのは、そういう運動をしている女性の中にも“幻の赤ちゃんを抱いて症候群”の人がいること。就職前から子育てと仕事の両立が過剰に不安になって、「とりあえず就職しないで大学院に行く」と言ったりするんです。

酒井 「子どもがいなくてもそれはそれで」じゃないんですね。

浜田 実際に仕事と子育ての両立で大変な人を見ているからではなく、メディアの影響という気がします。それこそ『負け犬の遠吠え』の影響を受けすぎて、結婚と子どもがマストになっている。ライフに重きを置いているんですね。

浜田敬子著『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたらもっと仕事は楽しくなる』(好評発売中 本体1,300円+税/集英社)
浜田敬子著『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたらもっと仕事は楽しくなる』(好評発売中 本体1,300円+税/集英社)

酒井 3月に出る『家族終了』の中では、男性が酒場の「ママ」に甘えたり、占い師が「○○の母」と呼ばれたりする疑似家族願望についても、書いています。でも若い人たちの家族幻想は、もう擬似家族では間に合わなくなってきている。

浜田 SNSで家族の幸せそうな写真を上げる人が多いからとか、親世代の離婚率が高い反動とか、いくつか理由は考えられますが、一番大きいのは東日本大震災の影響だと思います。消えない不安感も、地に足がついているのも、家族が大事という思いも、若い頃に「いつ何が起きるかわからない」という強烈な経験をしたからからだと。ボランティアに行った学生も多いんです。

酒井 私たちは、心が柔らかい時期にさほど大きな危機がなかったから。

浜田 そんな時期がバブルだったわけじゃないですか。そこが決定的に違いますね。

酒井 その前にもオウムの事件や阪神・淡路大震災といった大きな出来事があったけれど、我々はすでに大人でしたしね。

浜田 若くして起業する人が多いのも最近の傾向ですが、「もっともっと」と欲張って上を目指すのではなく「今ここにあることを大事にしたい」という精神を感じます。だから女性も結婚相手を「今いる人がベスト」と考える。

酒井 現実的ですね。足るを知るというか。

浜田 とにかく目の前の不安を払拭したい、ひとつひとつ不安のピースを埋めていって先が読める人生にしたいという感じです。そのせいか、総合職をやれる能力があるのに、将来の結婚を考えてあえて転勤のない一般職を選ぶ女性も。彼女たちは、もっと先の大きな不安を考えていないのではという気がします。一般職の場合、AIが導入されたら仕事がなくなるかもしれないし、仕事自体に飽きてしまうかもしれないのに。

酒井 考えてみればリスキーですよね。たとえ結婚しても、その先がどうなるかはわからない。

浜田 将来が不安なわりに自分の人生を人に託そうとしている人も。

酒井 「必死で頑張る」みたいなことはあまり良しとされないムードを感じます。でも、エリートと言われる人たちはいつの時代もラクをしている訳でなく、実は必死で頑張っていますが、その一方では、無理をしたくない人、「そのままでいいんだよ」と言ってほしい人が増加している。「たまには根性出すのもいいんじゃないの?」と言いたくなります。

浜田 よくぞ言ってくださった! 私たちは最後の昭和世代だから、能天気だけど根性論が染みついているんですよね。バブルの頃だって、仕事がハードだったから楽しいことばかりじゃなかった。

酒井 根性出すのも、一つの「プレイ」だから、意外と楽しい。つねに頑張り続けなくてもいいけれど、ここぞというときにギアを上げてみないと、ピリッとしない毎日になってしまいそう。

浜田 根性論が行き過ぎてパワハラになるのは問題ですが、やるときにはやるという気持ちは大事ですよね。

これからも「楽しい」を優先する バブル世代はきっと元気!

酒井 この間、レストランの隣のテーブルに、若い子たちにバブル自慢をする同世代女性がいたんです。「マンゴープリンを食べたいと言ったら、来週香港へ行こうって誘われた」とか。痛々しくなって「バブル自慢はしちゃダメ」と痛感しました(笑)。

浜田 若い子たちだって私たち世代にしょぼい話題は期待していなかったと思いますよ(笑)。少し前にエッセイストのジェーン・スーさんと作家の甘糟りり子さんと話したときに、甘糟さんが「今日より明日がよくなるという感覚が抜けない」という私たち世代の感覚を話したんです。スーさんは最初びっくりしていたけど、「そういう話を聞くと元気が出ます」と。ただバブル世代もさすがに老後を考えて、昔のようなお金の使い方はしなくなったみたい。酒井さんはいつ頃から老後について考えるようになりましたか。

酒井 50の声を聞いてからですね。お金のことを考えるのは苦手なのですが、タクシーにはよく考えてから乗るようになりました。

浜田 これみよがしのバッグは持たないとか(笑)。

酒井 マンゴープリン的なバブル自慢をするのも痛々しいけれど、「どうせ私たちは駄目なバブル世代だから」と自虐が過ぎるのも痛々しい。淡々と生きるって難しいです。

浜田 とはいえ私たち世代って、働いている人も専業主婦も、不安よりつねに楽しいことを探している気がします。

酒井 それはもう、習い性ですね。DJをしている同世代の知人は、高齢者施設でボランティアとして音楽をかけたりしている。楽しさ、軽さを重視する姿勢も、これからは大切になってくるかも。私も老人ホームで踊りたい(笑)。

酒井順子著『家族終了』(3月26日発売 本体1,400円+税/集英社)
酒井順子著『家族終了』(3月26日発売 本体1,400円+税/集英社)

浜田 10年ぐらい前に“美魔女”が出てきたとき、「バブルっぽい」と思いませんでしたか?

酒井 もちろん。笛を吹かれると、つい踊っちゃうんですよね(笑)。

浜田 私たちは女性誌を読むのが好きな世代でもありますが、あと10年くらいしたら、新しい感覚の60代向け雑誌が出るかもしれませんね。

酒井 既存の高齢ミセス向け雑誌では、「モテたい」という欲求がカバーされていないから、バブル世代には物足りないのでは。

浜田 そう、いつまでも女であることを捨てないし、楽しむことに罪悪感がないんです。

酒井 浜田さんは50歳で転職されていますが、すごくいいタイミングだったのではないですか。色々な意味で50歳は転機。自分の来し方行く末を考えたうえで、決断できたでしょうし。

浜田 最後の転職のチャンスかな、と。それと、やっぱり働き続けて収入を得ていたいと思ったんです。節約もいいけれど、ある程度のゆとりが欲しいというのがこの世代の本音ですよね。

酒井 私も、節約にかける時間で、働いた方がいいかなと、つい思ってしまう。

浜田 働いてさえいれば、少しずつでも入ってくるものがあるわけですから。私たちくらいの年齢になると、夫との関係とか、子どもの問題とか、親の介護とか、自分の健康とか、不安要素がいろいろ出てくる。でもそれらを心配しすぎるのではなく、自分が楽しいと思うことをやりつつ対応している人が多い気がするんです。だから下の世代の女性たちにも「不安要素ばかり気にするのではなく、まずは目の前の楽しいこと考えてみて。そうすればきっと一生楽しいよ」と言いたいですね。

構成/文 山本圭子
撮影 chihiro.

◆浜田敬子さんの特集対談②はこちらから→https://yomitai.jp/special/hamadakeiko-02/

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浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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