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まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの

まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの

若くても「早く結婚したい!」 その裏側にあるおそれとは

浜田 最近の若い女性には、早く結婚して早く子どもを産みたいという人が多い。私たちの頃はなぜか「もっといい人が出てくる」と思っていませんでしたか?

酒井 もちろん思っていました(笑)。

浜田 話を聞いてみると、2012年にNHKの「クローズアップ現代」でやった「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」の影響が大きいみたいなんです。「35歳を超えると妊娠が難しくなる」という内容で、「早めに産んだほうがいい」というイメージが一気に広がった。

酒井 私が35歳の頃は、年をとれば妊娠しづらくなるのは知っていても、「だから具体的な策を取らなくては」とは思っていませんでした。運を天に任せよう、みたいな(笑)。今の人達、しっかりしてる!

浜田 私の場合、子どもは欲しかったけれど、決断をギリギリまで引き延ばそうとしたんです。40歳ぐらいまでは大丈夫だろう、と。

酒井 私は子どもが欲しいかどうかもわからなかったので、やっぱり「なるようになるかな」ぐらいの感じでしたね。こんな我々が上にいたから、「ああはなりたくない」と若者は思ったのかも。

浜田 当時は仕事でもプライベートでも、やりたいことがたくさんあったんです。目の前の楽しいことに抗えなかった。

酒井 私もそうでした。ただ、今の若い女性は、結婚や出産を現実的に考えているわりに「自分より収入の低い相手はイヤ」とか「キャリアが劣る相手はイヤ」などと言う。

浜田 共働きはデフォルトと考えていてもそうですね。

酒井 かなりな高キャリア女性もその手の発言をするので、「あなたたちの年収やキャリアを超える人って、なかなかいないのでは?」と言いたくなることがよくあります。

浜田 そのせいか、最近は大学時代の彼と結婚したいという女性も多いですね。この間20代半ばの男性から「学生時代から付き合っている同級生の彼女が早く結婚したがって困っている」という話を聞きました。男性ってだいたい、28歳ぐらいまでは結婚を引き延ばしたいものだと思いますが。

酒井 仕事と結婚を両立させて疲れ果てるよりも‥‥と、専業主婦願望も、一方では強まっています。

浜田 そういう印象はありますね。

酒井 私が二十代の頃は、「女性から結婚にがっつくと、男性に引かれるからやダメ」と思っていました。女性誌にもそう書いてあった(笑)。今はそういう感覚ではないんですね。

浜田 昔は若い女性と部長クラスの男性の不倫話をよく聞きましたが、最近は少ないみたい。女性側が「不倫は時間の無駄」という認識なんです。

酒井 その感覚は正しい。

浜田 私たちが若い頃は「同級生の幼稚な男の子に比べて部長は仕事ができてお金もあって憧れる」みたいに考える人もいましたよね。今の若い女子に対しては「結婚相手をそんなに早く決めていいの?」という気もちょっとしていて。

酒井 一方で今の40代女性は、『負け犬の遠吠え』の教えを生かしていない人が多いんです。つまり、“結婚は自然にできるもの”という感覚で何となく若い時代を過ごして40代に。そういう意味では、今の若い子たちには『負け犬』の教えがやっと届いたと考えればいいのか……。

浜田 40代だと、若い頃にバブルの名残りがあったからでしょうか。今の20代、30代には『負け犬』の教えが浸透したというか、針が強く振れすぎたのかもしれません。

酒井 でも、早めに結婚や出産をしたい女性が増えているわりに、出生率はあまり上がっていませんよね。

浜田 今の20代には「ふたり目を産みたい」という人が増えているから、数字に表れるのはこれからかもしれませんね。

両立の不安も出世欲のなさも 女性ならではの性質!?

酒井 若い女性の「早く結婚して子どもを産みたい」という傾向は、世の中の保守化の影響でしょうか。

浜田 それもあると思います。彼女たちと話していてよく感じるのは、母性の強さですね。私は仕事が忙しいと子どものことが頭からスコンと抜けてしまうんですけど(笑)、子どもや夫に対しての罪悪感はあまりない。ただ“罪悪感がないということへの罪悪感”はすごくあります。若い女性の「子どもはふたり欲しい」とか「できるだけ自分で世話をしたい」という声をきくと、「自分には母性が欠落しているのでは」と感じてしまいますね。

酒井 母性もキャリアも、ということですね。昔に比べて、働く女性の割合は増えていますが。

浜田 それはありますね。バブル世代で働き続けている人は少数派ですが、それは出産前後や育児中の制度が整っていなかったから。私のように親に近くに住んでもらうといった荒業を使うしかなかった。だから「子どもはひとりで精いっぱい」と考える人が多かったんです。高齢出産の場合は特にそう。今は制度が整ってきて「女性も働き続けるのが普通」と考える人が増えてきたから、働き続ける人もふたり目を考える人も増えてきた。これ自体は自然ないい流れだと思います。

酒井 働くこと、そして働き続けることが、特殊じゃなくなったんですね。

浜田 そうですね。『働く女子と罪悪感』で対談した組織マネジメントが専門の国保祥子さんが「働き続けるという覚悟と辞めないという覚悟は違う」とおっしゃっていましたが、今の若い女性たちは“辞めない覚悟”派だと思います。人手が足りない時代だから会社からも「辞めないでくれ」と言われて、辞める理由がないんです。バブル世代の「働くのが好きだからどうしても続けたい」「楽しみのためにもお金を稼ぎたい」という気持ちとはだいぶ違いますね。そういう意味では、男性が働き続ける感覚に近づいている気がします。

酒井 確かに、少しずつそうなってきたのかもしれませんね。結婚した後も、離婚などで1人になる可能性のことを考えると、女性が経済力を手放してしまうのは、リスクが大きすぎる。

浜田 男性のなかには仕事が嫌いな人もいたはずですが、家族を食べさせていくために“普通に”働いていた。今や女性もそれと変わらない感覚になってきたのに、女性だけに働き続けることへの強い不安感や罪悪感があるんです。

酒井 女性は産む主体であって、現状ではまだまだ子育ての主たる担い手です。

浜田 もちろんそれは大きいと思います。ただ女性の場合、幼少期からの育てられ方にも影響されていると思います。失敗を気にする、人前で目立ちたくない、つまり“突出した存在”になりたがらない、能力があっても隠す、環境がそうさせるのか、それが働くことへの大きく影響していると思います。それって日本の女性の特性なのかなと思っていたら、最近読んだNYタイムズの記事によると、国民性とは関係なく女の子には6歳ぐらいから失敗をおそれる意識が芽生えるらしい。

酒井 アメリカでも、性別による違いがあるのか……。

浜田 親の育て方の影響もあるかもしれませんね。「女の子は出しゃばってはいけない」と言うとか。

酒井 「女性には出世欲がない」という話もよく聞きます。

浜田 確かに管理職を打診しても躊躇する女性は多いですね。男性にそういう人はいないと思いますが。

酒井 それは「ひとりのプレイヤーでいたい」という気持ちからなのでしょうか。それとも責任をとるのがつらいから?

浜田 両方かもしれませんね。そのあたりの感覚は、世代格差より男女差のほうが大きいと思います。

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新刊紹介

浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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