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まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの
不安より楽しいことを。 能天気、前のめりすぎてウザい……など、何かと揶揄されがちなバブル世代。 均等法世代として次世代へ贈るメッセージを綴った『働く女子と罪悪感』が話題の浜田敬子さんと、近著『駄目な世代』で同世代を考察した酒井順子さんは、ともに丙午ひのえうま生まれ。 50代に入った二人が、バブル世代、世代間ギャップを大いに語り合います!

まあなんとかなる―!? バブル世代の楽観主義がもたらすもの

バブル世代女子の就活は 三重の上げ底だった!

浜田 酒井さんがバブル世代について真正面からお書きになったのは『駄目な世代』が初めてですよね。

酒井 そうですね。若い頃は若さという別のダメさに隠れていた世代的ダメさが、50歳になると浮き彫りになってきたと感じて。もしかしてこの「ダメさ」はもう治らないのか? という恐怖心から書きました。

浜田 私が持っているバブル世代のイメージは、氷山のてっぺんなんです。一瞬景気がよかったバブル世代だけがいつの時代になっても、能天気にプカプカ浮いている(笑)。

酒井 私たちがバブルを作ったわけでもなければ、バリバリに働いてたくさんその恩恵を享受したわけでもないのに(笑)。就職のときに楽をしたことが、一生つきまとうんですよね。

浜田 酒井さんも私も丙午生まれだからそもそも人数が少ないし、バブル景気で売り手市場。就活の3年前には男女雇用機会均等法が施行されていたので、女性に総合職という職種もでき女子に門戸が広がっていた。酒井さんも書いていらっしゃいましたが、三重の上げ底でしたよね。ほかの世代の神経を逆なでする覚悟で言いますが(笑)、就活って下の世代の話を聞くと、楽だったんなあと。

酒井 自分では苦労したつもりでしたが(笑)、下の世代に話を聞くと相対的に楽だったと思います。

浜田 私は第1志望が新聞社でしたが、それ以外の企業も受けてみようと思って、何人かのOBOGに話を聞きに行ったんです。すると最初に会う場がすでに面接の第一段階のようで、次は人事、気がついたら役員と話がトントン進んで「うちに来ませんか?」という流れに。いろいろな会社の中を見ることができて面白かったし、ご飯をごちそうになったりもした。こう言うとひんしゅくを買いそうですが、就活は楽しい思い出なんです。

酒井 当時の企業訪問は、正式には8月20日解禁でしたよね。私は体育会の部活に入っていて、18日まで忙しくしていたんです。19日に部活の同級生と「明日どうする?」という話になったとき、彼女に「大手銀行から資料が届いているから一緒に行ってみる?」と言われて。結局「金融は明らかに向いていない」と思って私は途中でやめましたが、その同級生は楽々内定。4年生のインカレまで部活をやり切ってから就活を始めても複数の内定をもらえた時代でした。

浜田 内定辞退のときの武勇伝が話のネタになりましたよね。人事担当者にうな重を投げつけられたのを耐えたとか、内定者が拘束されていた温泉ホテルから逃走したとか。1988年から92年ぐらいまでの話ですが、就活時にそういう経験をすると人生をなめてしまう。バブル世代が楽観主義になるわけです。  

酒井 本当に。受験や就職、結婚といった通過儀礼的なハードルを越える時にどれくらい苦労したかによって、人生観は変わってくると思います。

浜田 世の中がバブルだったというだけで、それほど苦労した経験がないまま、社会人になれてしまったんですね。

酒井 そんな世代であっても、浜田さんは働き続けてこんなに立派に。

浜田 いえいえ、とんでもない(笑)。ただ振り返ってみると、同世代にも下の世代にも勉強ができる人や真摯に人生を考えている人はたくさんいたのに、仕事を続けられないケースが多かった。働き続けるか否かに能力や真面目さがあまり関係ないなら、境界線はどこにあるのか……。私にとってそこがずっと謎なんです。

酒井 私が就職したのは広告代理店でした。あの時代には珍しく、一社しか内定を持っていなかった。でも考えてみれば何となく「入れるような気がする」という、根拠のない自信があったような‥‥。25歳で辞めたのは、既に書く仕事をしていたせいもあって、「まあなんとかなるんじゃないか」と思ったから。既にバブルは崩壊しつつあったので、今の私なら「辞めるな!」と言いたいですが、就活で「何とかなって」しまった経験のせいか、あっさり辞めました。

浜田 私もそう! 「なんとかなるだろう」と考えるほうです。ずっと新聞記者になりたくてずっと働くイメージは持っていたけど、子どもが生まれたらこうしようとか、シミュレーションしていたわけじゃない。勢いでここまで来てしまったというか。

酒井 逆に、仕事と子育ての両立をつきつめて考えていなかったからよかったのでは?

浜田 確かに。その場その場で考えていくしかなかったけれど、だからこそ臨機応変になれたのかもしれませんね。

今も昔も悩みは ロールモデルがいないこと

酒井 今までたくさんの編集者さんと仕事をしてきましたが、やはり就職氷河期を経験した人は、簡単には会社を辞めないですね。私たち世代とは仕事のありがたみの感じ方が、全然違う。

浜田 仕事のありがたみより“楽しいことや面白いことに価値を置きたい”と考えるのがバブル世代ですから。

酒井 会社を辞めてからわかったのは、特に大手企業の正社員の既得権益はすごい、ということ。だから会社員の女友達には、「ほかにどうしてもやりたいことがあるのでなければ辞めないほうがいい。むしろ石にかじりついても辞めるな」と言っています(笑)。

浜田 同級生に専業主婦が多いのは、就活時に女性に総合職の門戸が広がっていたとはいえ、まだまだ寿退社が多い時代だったからだと思います。大手銀行に勤めていた友人は、総合職なのに「女は日経(日本経済新聞)を読まなくていい」と言われたとか。男性側はそれくらいの認識だったんですね。

酒井そんな状況でも総合職として頑張り通したのは1、2割でしょうか。そのひとりが浜田さん。

浜田 当時から新聞社には「長く勤めるのが当たり前」と考える女性が多かったからですよ。私より上の世代の人たちは、子どもが生まれるとベビーシッター代にお給料をつぎ込んだり、自宅近くに親を呼び寄せたりしていました。だから私も頑張り通したというより、そうするのが当たり前だと思っていたんです。ただ下の世代の女性たちは「浜田さんたちの世代が頑張りすぎるから私たちはしんどい」と感じているみたいで。『働く女子と罪悪感』にも書きましたが、それを言われたときはショックでしたね。

酒井 会社員時代のことで覚えているのは、管理職に女性が極端に少なかったことですね。当時、1歳上の先輩女性社員と話していたとき、「会社員生活のモチベーションとなるようなロールモデルが近くにいない」という話題になったのですが、最近27歳の総合職女性会社員と話した時、彼女も「ロールモデルがいない」と。「30年経っても、まだ同じことを言っているのか」と、驚きました。

浜田 結局、ロールモデルっていないんですよ。

酒井 そう思います。女性を取り巻く環境は日々変化しているし、特に女性は人によって生き方もそれぞれ違うから。自分と同じ道の先を行くロールモデルを期待しても、一生登場しないのでは。たとえば浜田さんを真似てみても、みんなが浜田さんの通りにはならないじゃないですか。

浜田 そもそも仕事の内容が違うでしょうし。私にも「素敵だな」と思う先輩はいますが、憧れるのは働き方ではなくきれいな歳の取り方とかですね。仮に働き方に憧れる人がいるのであれば、全部を真似るのではなく“いいとこ取り”でいいと思う。

酒井 私が歳を取ったせいかもしれませんが、若い人たちに「ロールモデルを求めるより、自分がそれになった方が早い」と言いたくなって。

浜田 以前ある企業の組合の女性委員長から講演に呼ばれて、女性の働き方について話したことがあったんです。その企業は女性が出産後も仕事を続けられるような制度が至れり尽くせりあるホワイト企業。しかも集まった女性たちは仕事への意欲も能力もありそうな今どき女子。つまり私から見ればものすごく恵まれている人たちなのに、口々に「仕事と子育ての両立が不安」と言うんです。「今すぐ結婚を考えている人ばかりでもないのになぜ?」と。酒井さんは若い頃そういう不安ってありました?

酒井 私の場合、そこまで考えが全く及びませんでした。我々に欠如しているのは、「不安」かもしれませんね(笑)。

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新刊紹介

浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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