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『ご機嫌剛爺』出版記念対談! 逢坂剛×酒井順子 仕事も趣味も“ご機嫌”を保つ人生の流儀

怒るのはエネルギーの無駄

酒井 でも逢坂さんは、ガス抜きも必要なさそうです。

逢坂 そうね、ガス抜きはしないね。何か不愉快なことがあると、それをすぐ忘れる方だから。

酒井 ガスがたまらないということなんですね。

逢坂 たまらない。どこからか自然に抜けちゃうんだよな。ちょいと、ギター弾いたりしているうちに、忘れちゃう。

酒井 私もギターを弾こうかな(笑)。それどころじゃなく、ほかにやりたいことがたくさんあるということなんですね。

逢坂 そうですね。自分が怒っている時間、というのはもちろん不愉快だし、すごくエネルギーの無駄だと思う。怒ることによって、自分の気持ちが収まるわけじゃないでしょう。それだったら、パッと何かに切り替えて、自然に忘れるほうが楽なんだよね。あれって本当に、エネルギーの無駄だと思うね、怒ってぐちぐち考えるのは。
私の場合は嫌な人とは、会わないでいりゃ、済むことだからね。編集者には、基本的に嫌な人というのは、まずいないから。

酒井 以前、決まった出版社としか仕事されないっておっしゃっていましたよね?

逢坂 それは、博報堂の頃の話で、集英社、文藝春秋、講談社、新潮社、この四社としかお付き合いしなかった。単に時間的余裕がなかったから。四社でも、よく頑張っていたな、と思います。それで、辞めて自由になったら書きますから、という空手形を随分切って、なんとか切り抜けた。基本的には今でも、四社が多いですけどね。

酒井 全く知らない方との仕事がないということは、それだけストレスも軽減されるということですね。

逢坂 そういうことだね。嫌な人に会う機会も、少なくなるしね。

酒井 気心の知れた方とか、社風が分かっているという中で仕事をすれば、気を遣うことは減りそうです。

逢坂 でも、編集者だって基本的には対人関係の仕事だから、そんなに嫌な人っていないでしょう。押しつけがましかったり、これを書いてくださいよと、しつこく言ってくる編集者も、あまりいなかった。いたって、それは仕事だなと思うから、別に嫌だとは思わない。断ればいいだけの話だし。

酒井 大分若い担当編集者さんもいるわけですよね。

逢坂 もちろん、私より若い人ばっかりなんだけどね。今二十代とか三十代、結構多いけど、みんないい連中ばっかりなの。年寄りの話をよく聞いてくれるし。そうすると、こちらも面白い本の見つけ方とか、そういうのを教えたくなるわけです。

酒井 それはすごくありがたいことですね、若者にとっては。

逢坂 私の手元に、ディーン・R・クーンツというアメリカの流行作家が書いた、『ベストセラー小説の書き方』という本があってね。この本をいつも、古本屋で見つけるたびに何冊か買っておいて、担当が替わるたびに、「君、これを読みなさい。これを読むと、面白い小説は何かということが、分かるから」と言って渡しているんです。

酒井 書名、メモしました。

逢坂 ところで、苦手な編集者って、いるの?

酒井 みなさん良い方なのですけれど、実は、一回だけ担当の方を替えてほしいと言ったことがありますね。女性蔑視的な男性は、やはりつらいです。でも、私も結構すぐ忘れちゃうので、毒出しするか、忘れるのを待つ。

逢坂 それが自己防衛の、最短の道だよね。気にしない、腹立ってもね。いちいち根に持っていたら、とてもじゃないけど、小説とかエッセイで書いてられないもの。でも、エッセイでそれをネタにして書くことは、できるかもしれないね。

酒井 そうですね。

逢坂 誰とは言わないが、なんて。

酒井 芸の肥やしと思って。

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新刊紹介

逢坂剛

おうさか・ごう
1943年東京生まれ。80年「暗殺者グラナダに死す」で第19回オール讀物推理小説新人賞を受賞。86年に刊行した『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。2014年、第17回日本ミステリー文学大賞、15年『平蔵狩り』で第49回吉川英治文学賞を受賞。20年、「百舌」シリーズ完結時に第61回毎日芸術賞を受賞。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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