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逢坂剛×酒井順子“博報堂出身作家”対談 「自分をかわいがると、どんな仕事でも楽しみが見つかる」

物書きは学ぶのが好きでないとできない

――今回の本には、逢坂さんの多彩な趣味ついても書かれていますが、酒井さんの趣味の育て方はどのようなものでしょうか。

酒井 趣味は、京都旅行ですかね。古典を読むようになってから、頻繁に行くようになりました。清少納言ゆかりの地や源氏物語ゆかりの地をめぐっているうちにどんどん楽しくなって。私も東京生まれで、ふるさとが東京なので、ほかにあまり詳しい土地がないのですが、だんだん京都が第二のふるさとというか、逃避場所のようになってきました。旅先でもなければ、ホームタウンでもない、第三の土地みたいな。

逢坂 旅そのものが好き、というわけではないの?

酒井 旅そのものが好きです。鉄道が好きなので、一応就職活動のときは、JRも受けました。あっさり落ちましたけど……。逢坂さんは、旅は専ら海外ですか? スペインとか。

逢坂 私の場合、旅はあまり好きじゃない。スペインは何度も行ったし、西部劇小説の絡みでアリゾナも行ったけど、それはフラメンコや西部劇が好きだからで、旅そのものはどうしても行きたい、というわけじゃない。だから、日本でも行ってないところがたくさんあって、一度も行ったことのない鹿児島へは、何年か前に初めて行ったくらい。
毎日新聞に連載した、中山道を旅する時代ものを書いたときも、普通の作家だと、編集者を連れて踏破してみようなんていう気になるのが、普通でしょう。でも私は、あえてそれをしなかった。とにかく資料だけ、「木曽街道名所図会」とか買ってきて、それを見ながら、仕事場から一歩も出ないで、書いたんです。

酒井 旅好きではないとは意外です。じゃあ、資料の上で旅をする気持ちになるのですね。

逢坂 そうです。まるで行ったかのごとく書いた。読者も多分、行ったと思っているかもしれない。
実際に行ったところで、江戸時代のものがそのまま残っているわけじゃないし、かえって現実が見えてしまってよくないかな、ということもある。外を歩いて取材するということは、めったにない。全くしないわけじゃないけどね。『重蔵始末』で近藤重蔵について書いたときは、北海道を一応取材して歩いたけど、このときだって取材旅行というよりは、遊覧旅行みたいなものだった。とにかく旅そのものは、それほど好きじゃないですね。

酒井 ご著書を読んでいると、スペインの列車の中でサンドイッチを分けてもらって現地の方々と仲よくなってとか、旅上手と思っていたんですけど。

逢坂 あれは期せずしてというか、スペイン人を褒めるべきであってね。日本人も、そういうところがあると思う、田舎へ行くとね。その頃、日本人が次第に失いつつあった人情が、まだスペインにはふんだんに残っている、という感動も多分あったと思う。

酒井 スペイン語も独学で習得されたんですよね。

逢坂 そうね。人に決められて、語学の学校に行って、決められた時間にやるというのが、どうも苦手なんだ。独学が好きなんですね。

酒井 資料もきちんと製本されていたり、なんと几帳面な方なのかと……。

逢坂 あれも、別に教わったものじゃなくて、何となく始めたものなんだ。そうすると、きちんと作るのがまた楽しい、というのが分かってくるわけね。

酒井 私も細かい作業は結構好きなので、製本はちょっとやってみたいと思いました。
昔から、人に習うのは結構好きなんです。お習字とか、中華料理とか。

逢坂 学ぶことが好きな人は、物書きになる資格をそろえしているし、逆に物書きは学ぶのが好きでないと、できないでしょう。

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新刊紹介

逢坂剛

おうさか・ごう
1943年東京生まれ。80年「暗殺者グラナダに死す」で第19回オール讀物推理小説新人賞を受賞。86年に刊行した『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。2014年、第17回日本ミステリー文学大賞、15年『平蔵狩り』で第49回吉川英治文学賞を受賞。20年、「百舌」シリーズ完結時に第61回毎日芸術賞を受賞。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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