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大相撲中継の名コンビだった52代横綱・北の富士勝昭さんとの交流と、ふたりをつないだ相撲愛【元NHKアナウンサー・藤井康生さんインタビュー前編】

「言葉を残したい」と思わせる人

――あの企画は藤井さんの発案だったんですね。相撲について、さまざまなことがうかがえて、とても面白かったです。毎場所、楽しみにしていました。

最初に話をもっていったとき、北の富士さんには「面倒くさいな」と言われましたけど(笑)。でも私がインタビュアーで、毎回30分~1時間、話をしていただいて。放送で使うのは7分くらいですからもったいなかったですけど、使われなかった話をずいぶん今回の本に使わせてもらいました。
この企画も、この本も「この人の経験はきちんと残す必要がある」と思ったから生まれたものなんです。そう思わせてくれる人でした。

――今回の本も形にするには大変なご苦労があったと思います。

本当です。でも、できあがった本を見て、「やってよかったな」と思いました。私、50歳を過ぎてからフルマラソンに挑戦しているんですが、マラソンと一緒ですよね。途中で何度も「やめようか」「なんでこんな苦しいことやっているんだろう」と思うわけですよ。先日(11月9日)も福岡マラソンに参加してきたんですけど、自分からエントリーして、足を引きずりながらヘトヘトになって走って。しかも、途中から雨風、まるで台風ですよ。その中をあと何キロ走らなきゃならないんだって、考えるだけで嫌になるわけでしょ。でも、ゴールまで残り5キロ、4キロって表示が見えてくると、ちょっと元気が出る。ゴールすると、「やったあ」という気持ちと「次はどこのマラソンにエントリーしようかな」という気持ちが湧いてくる。それと似ていますよね。ただ、本はさすがに「次は何を書こうかな」とは思いませんでしたけど(笑)。

でも、もう二度とこういうことを語ってくれる人は出てこないでしょう。今の日本相撲協会にいる人たちも語ることはできない。だから北の富士さんを失ったことは本当に惜しいんだけれども、せめて本となって少しでも、その言葉が残ったことはよかったと思うんです。

『粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代』刊行特集一覧

【「はじめに」試し読み】 死去の報道から1年。52代横綱・北の富士勝昭さんが上京した日に生まれた不思議な縁

【「1章 出会い」一部試し読み】 昭和32年1月7日の上野駅。「赤いダイヤ」が入った麻袋を持った北の富士少年の上京物語

【「8章 語りの天才」一部試し読み】 妹、親友、行きつけの店主と女将が語る、素顔の北の富士の「粋」な男っぷり

【藤井康生さんインタビュー前編】 大相撲中継の名コンビだった52代横綱・北の富士勝昭さんとの交流と、ふたりをつないだ相撲愛

【藤井康生さんインタビュー後編】 「北の富士さんは生きる文献であり大辞典。その貴重な話でますます相撲が面白くなった。その魅力を見ている方に伝え続けたい」

発売即重版! 大好評発売中

2024年11月12日、82歳での別れから1年。
「第52代横綱」として、「千代の富士と北勝海、2人の名横綱を育てた九重親方」として、「NHK大相撲中継の名解説者」として、昭和・平成・令和と3代にわたり、土俵と人を愛し続けた北の富士勝昭。

大相撲中継で約25年間タッグを組んだ、元NHKアナウンサーである著者が書き残していた取材メモや資料、放送でのやりとりやインタビューなどを中心に、妹さん、親友、行きつけの居酒屋の店主など、素顔の故人を知る人物にも新規取材。「昭和の粋人」、北の富士勝昭の魅力あふれる生涯と言葉を、書き残すノンフィクション。

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新刊紹介

藤井康生

ふじい・やすお/昭和32年1月7日生まれ、岡山県倉敷市出身。岡山朝日高校、中央大学法学部を経て、昭和54年4月、日本放送協会(NHK)入局。43年間のアナウンサー職を経て、令和4年1月、NHKを退局。大相撲は昭和 59年七月場所から約 38年間担当した。現在はフリーアナウンサーとして「ABEMA大相撲 LIVE」で実況を担当。公益財団法人日本相撲協会記者クラブ会友、JRA日本中央競馬会記者クラブ会友など多方面で活躍。
著書に『土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社)がある。

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