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場と機会を経営する【後編ゲスト:平田はる香さん】

こころはひらいてるけど、一人でいたい

染谷 パブリックイメージとして、わざわざは、穏やかな時間が流れる素敵なライフスタイルのお店で、「ここで働きたい」という方も多いと思うんです。でもそのイメージとすさまじい経営道のギャップがすごいですよね。

喫茶と本とギャラリーの店「問tou」の店内
喫茶と本とギャラリーの店「問tou」の店内

平田 去年から採用説明会を年1回のペースでやっているんです。わざわざが他の会社とどう違うのか、こういう人が入社したら合わないとか、かなり踏み込んで説明します。移住してくる人も多いから、その大変さも包み隠さず。それでミスマッチを防いでいます。

あと、採用のメソッドも公開しています。大事にしているのは、次の3つの「フィット」で、「スキルフィット」「カルチャーフィット」「長野フィット」と言っています。何かというと、まず、「スキルフィット」は分かりやすくて、接客や販売、営業など、具体的に求められるスキルを提示して、それができる人を採用し、そこに配属します。

例えば、接客をずっとやってきた人だったら、販売のスキルが身についているから、販売系に回るんです。本人が拒むならば全く異なるスキルの業務をすることはありません。

次に、カルチャーフィットというのは、うちの会社はこういうカルチャーがあるので、それに合わない人は難しいと伝えています。

3つ目は「長野フィット」。実はこれが一番大事だと思っています。入社希望の方の中には、長野の豊かな自然に憧れて移住してくる方が多いんですけど、実際に暮らしてみると分かりますが、本当に大変です。スキーや登山が好きな人など、もともと自然に親しんでいる人はうまくフィットしている印象です。ただ単に憧れだけで来てしまうとなかなかなじめなくて苦労していますね。

染谷 なるほど。即戦力ではなく、ゆっくり育てていくみたいなマインドはあるんですか?

平田 それももちろんあります。最初に求めるスキルはそこまで高くはないです。ワードやエクセル、それに電話やメールの対応ができるくらいでOKです。

ただ、うちの会社はカルチャーが変わってるんです。みんな仲良くないです、全然(笑)。喧嘩するっていう意味じゃないですよ。みんな大人で、個人として自立しているので、慣れ合いのコミュニケーションがない。移住してきた人たちもそうなんです。

普通、移住してきたら、何らかのコミュニティーに入りたいじゃないですか。でも、それを求めていない。ベタベタしないんです。そこが合わないという人も多くて。こんなに冷たい会社だとは思わなかったって(笑)。飲み会も一切ない。新年会、忘年会、歓送迎会ってゼロですから。

染谷 ひらくもないです。僕があまり好きじゃないっていう。

平田 私もそうです。

染谷 心はひらいてるけど、1人でいたいみたいな。

平田 そういう感じです。そうしたことを好む人たちは、すごく働きやすいと言うんです。でも、そうじゃない人たちは、逆に働きづらい。だから、カルチャーフィットが大事なんですよね。

「明るくて元気」が一番

平田 私、今まで生きてきて、何が人生で一番大切かなと考えたときに、「明るくて元気なのがいい」と思っているんです。言葉にすると当たり前のように感じますが、実践するのは難しい。余計な気を遣わせず、明るくて元気って、すごいことです。それだけで場がうまく回ります。だから、自分もなるべくそうしたいと思っています。

染谷 「不機嫌」って、あらゆることのコストを上げていて、パフォーマンスが悪くなりますよね。

平田 本当にそうです。でも、さっき「みんな仲良くない」って言いましたけど、それと、「明るく元気」って矛盾するように感じますよね。でもそれが両立するような場をつくっていきたいんです。

染谷 明るくて元気なんだけど、慣れ合わない。たしかにそういう感じがお店の空気感にも出てるような気がします。

平田 常連の方もよくいらっしゃるんですけど、その方とだけずっと話しているような、馴れ合いの空間にはしたくないんです。そうなると、遠くの人が入りにくくなってしまうから。そういうのはやめましょうと、結構、接客の研修でも細かく言っていますね。

染谷 そこも場づくりで大事なポイントですね。今日は、いろいろと共感するお話を聞かせていただきました。特に、最後の「明るくて元気だけど、慣れ合わない」というのは、今回のテーマでもある「場と機会」をつくっていく上で、シンプルだけど重要なキーワードだと思います。そういう場をいかにビルトインできるか。これから僕自身も考え続けていきたいと思っています。今日は、本当にありがとうございました。

平田 染谷さんがこれからつくる場も楽しみにしています。どうもありがとうございました。

*

「場と機会を経営する」前・後編をお届けしました。

「場と機会を経営する」というテーマに共感していただける皆様と、今後もこの話の続きができれば嬉しいです。ぜひ、この先の展開も楽しみにしていただければと思います。それでは、またお目にかかるときに。ありがとうございました。

前編記事はこちら

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平田はる香

ひらたはるか
パンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長。2009年、長野県東御市の山の上に趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を1人で開業。2017年に株式会社わざわざを設立した。2019年同市内に2店舗目となる喫茶/ギャラリー/本屋「問tou」を出店。2020年度に従業員20数名で年商3億3千万円を達成。2023年度に3・4店舗目となるコンビニ型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」を同市内に出店。初の著作『山の上のパン屋に人が集まるわけ』がサイボウズ式ブックスより出版。

染谷拓郎

そめやたくろう
2009年に日本出版販売株式会社(日販)入社。2022年より株式会社ひらく代表取締役社長。そのほか、ブックオーベルジュ箱根本箱を経営する株式会社ASHIKARI代表取締役社長、日販プラットフォーム創造事業本部副本部長を兼務。本のある場や文化施設の企画・実装・運営・経営を行う。令和5・6年度茨城県常総市まちなか再生プロデューサー。令和6・7年度JPIC読書アドバイザー養成講座講師

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