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語らないという選択――レディー・ガガが引き受けたもの【社会に言葉の一石を。もの言う女性アーティスト特集 第4回】

混乱を抱えたまま、歌うという選択

レディー・ガガは1986年に、イタリア系アメリカ人としてニューヨーク州ヨンカーズに生まれた。裕福な家庭に育ち、11歳で名門ジュリアード音楽院に合格するなど、早くから音楽の才能を発揮していた。しかし個性が強くて周囲に馴染めず、ニューヨーク大学の芸術学部を中退し、アンダーグラウンドなクラブなどで過激なパフォーマンスを行っていた時期もある。2008年にアルバム『The Fame』でデビューしてからは、音楽はもちろんのこと、話題や発言に事欠かず、その言動はファッションからマイノリティの問題、慈善運動、政治関連まで多岐にわたる。また、父親がインターネット企業の実業家だったという環境からか、ガガはデビュー当初からSNSをうまく活用してインフルエンサーとなり、リトルモンスターと呼ぶファン層の拡大や絆を固くすることにも成功した。

そしてガガは、自身も被害体験をもつサバイバーとして何度も公の場で発言し、被害者の支援を積極的に訴えてきた。2015年にはアメリカの大学キャンパス内における性暴力問題についてのドキュメンタリー映画『The Hunting Ground』に「Til It Happens To You」をダイアン・ウォーレンと書き下ろし、リスナーに「この曲を通じて私たちの愛と連携を感じ、この映画を通じて『ひとりじゃない』と知り、少しでも安らぎを見出せますように」とTwitter(現X)でと呼びかけた。この曲は多くの賞を受賞したほか、翌2016年、「最優秀オリジナル楽曲賞」にノミネートされた第88回アカデミー賞の舞台で、サバイバー数十人と共に披露された。なおこの映画に使われたガガの曲「Swine」は、自身が被害を受けた時に感じた怒りにインスパイアされて書いたものだとされ、『ARTPOP』(2013年)に収録されている。

自身の体験について多くを語る場として彼女が選んだのは、オプラ・ウィンフリーとハリー王子がプロデュースし、メンタルヘルスをテーマにしたApple TV+シリーズ『The Me You Can’t See』だった。ガガの出演は2021年5月21日に配信され、19歳の時に音楽プロデューサーから受けた性被害や、そこからのPTSDと自傷行為、トラウマ体験の長期的な影響やメンタルヘルスへの複雑な影響についても語った。また2018年に『The Hollywood Reporter』誌が開催したグレン・クローズやニコール・キッドマン、レイチェル・ワイズなど女優たちが出席した座談会で、「音楽業界は男性社会(ボーイズ・クラブ)だから、自分の権力を失いたくないために、被害女性を守ることはしないのよ」とも話している。

ネガティヴな考えを全て吐き出してしまえる場所を見つけて

一方、Netflixのドキュメンタリー作品『Five Foot Two』(2017)でも触れられているように、ガガは慢性的な身体の痛みに長年悩まされ、それが「線維筋痛症」という病名だと知る。そして2017年秋に病名を公表し、当時行なっていたワールドツアーが終了となる2018年2月のタイミングで無期限の休養に入った。休養の間、主演映画『アリー/ スター誕生』(2018年)のために書き下ろした主題歌「シャロウ 〜『アリー/ スター誕生』 愛のうた」で、第91回アカデミー賞の歌曲賞を受賞。また次のアルバム『Chromatica』(2020年)の製作に取り掛かかり、自己疑念や逆境をテーマにしながら、最終的に自己愛へと向かうストーリーを描いた。そうした闘いの只中にありながらも、ガガは表現者としての評価を失うことはなかった。

2025MTVビデオ・ミュージック・アワードで年間最優秀アーティスト賞を含む4つの賞を受賞。

『The Me You Can’t See』のインタビューで、「現在では、自分を闇から引っ張り上げる方法を学び、時間はかかったものの、ようやく少しずつすべてが変わり始めている」と話していたガガだが、ようやく出口に差し掛かる。最新アルバムの『MAYHEM』の1曲目「DISEASE」では内なる悪魔との闘いをテーマに、 “私が医者役を演じてもいい、あなたの病を治してあげる”と歌っているように、このアルバムで、今までになく自分を解放するように自由に曲作りに臨めたという。さらにファンに向けて、「私の願いは、皆さんが今回の曲を聞きながら、ネガティヴな考えを全て吐き出してしまえる場所を見つけ−あなた自身の身に起きている混乱を忘れ、作品世界の混乱の中に身を置き−音楽に身を委ねてくれたら、ということです」とアルバムのブックレットに記している。

別の場面でもガガは、「自分がメンタルヘルスと長年闘ってきたという経験があるからこそ、人々は助けが必要だとわかっているし、自分自身のことを隠したり偽ったりするのではなく、社会に恩返しをしたい」とも語っている。婚約者のマイケル・ポランスキーの存在も大きく、そうして辿り着いた表現の舞台が『MAYHEM BALL TOUR』である。 

アルバム『MAYHEM』の1曲目に収録されている「DISEASE」

1月の来日公演は、親日家としても知られるガガにとって2026年最初のステージとなる。盛大な饗(狂)宴で繰り広げられるのは、癒やしでも克服でもない、ありのままの生き様。そして混沌を否定せずに生き続ける、その姿そのものが、レディー・ガガの表現なのだ。

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伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者。『フィガロジャポン』『SPUR』などのモード誌や音楽媒体で多数のインタビュー、対談記事を執筆してきた。取材アーティストはデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド、宇多田ヒカル、椎名林檎など国内外問わず多数。
X:@natsumiitoh
Instagram:@natsumiii28

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