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語らないという選択――レディー・ガガが引き受けたもの【社会に言葉の一石を。もの言う女性アーティスト特集 第4回】

かつて公民権運動を支えたニーナ・シモン、アレサ・フランクリンといった黒人女性シンガーがいたように、意志を込めた言葉は心を動かし、社会も変えていく。現在もレディー・ガガやテイラー・スウィフトを筆頭に、自身も傷を負いながらも、声を上げて権利を主張し、女性の背中を押していく女性アーティストの言葉の意義は大きい。その声を4回の特集記事で紹介していく。

前回のケシャに続き、今回は楽曲が2026年第68回グラミー賞で女性アーティストとして最多7部門にノミネートされ、1月21日からは日本公演も控えているレディー・ガガについて。

(文/伊藤なつみ)

第4回 レディー・ガガの場合 

克服されない痛みと共に生きるということ

撮影/Frank Lebon
撮影/Frank Lebon

声を上げる女性アーティストが増えてきた時代にあって、レディー・ガガが選んだのは、語ることと同時に、語らないという選択だった。映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022年)でも描かれたように、性暴力やDVを受けても「守秘義務」というしがらみや、相手からの仕返しが怖くて何も言えないケースの方が多い。そういう人々にとって、ガガのようなパワフルに見える著名人でさえ「相手の名を明かしたくない」「自分が共有したいことだけを共有すればいい」場合があるということは、声を上げられない自分がダメなわけではない、と、力付けられるのではないだろうか。

#MeToo運動が起きた時、レディー・ガガはシンプルに「#MeToo」とのみ書いてSNSに投稿した。その後、自分が受けたセクハラについて語ることはあったが、「相手の名前を明かしたくない」という姿勢は現在も崩していない。それは、「その人物と再び対面するつもりはない」し、「名前を見るだけでもフラッシュバックすること」を意味しているからだという。さらにガガが一貫して拒んできたのは、「音楽が私を救った」という物語の安易な完成形である。彼女にとってトラウマは、克服され、消去される対象ではない。それは身体と記憶に刻まれ、時に再発し、人生のリズムを狂わせ続ける“同伴者”だったからだ。ガガの音楽は時には激しく、時には癒しではなく共存を望む。

『MAYHEM BALL TOUR』で可視化される、トラウマとの共存

レディー・ガガ『MAYHEM』通常盤 ¥3,300(ユニバーサル) デラックス・エディションCDも発売中。
レディー・ガガ『MAYHEM』通常盤 ¥3,300(ユニバーサル) デラックス・エディションCDも発売中。

2025年3月にガガは7枚目 となるオリジナルアルバム『MAYHEM』を発表し、4月にカリフォルニア州インディオで開催されたコーチェラ・フェスティバルではメインステージのヘッドライナーを務め、異次元のゴシック・ロック・オペラの世界へと大観衆を誘引した。その舞台で披露したのは4月26日からスタートした『MAYHEM BALL TOUR』の核となる部分で、そこからヴァージョンアップしながら北米から世界各国で公演し、大絶賛されてきた。アルバム楽曲の評価も高く、2026年の第68回グラミー賞で女性アーティストでは最多7部門にノミネートされているほどだ。 そして、2026年1月には東京と大阪で来日公演が決定している。

最新曲「The Dead Dance」のMVはティム・バートンが監督を務めた。5幕構成の『MAYHEM BALL TOUR』には『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』、『ロッキー・ホラー・ショー』、『不思議の国のアリス』などの世界観が感じられるが、なかでもNetflixドラマ『ウェンズデー』シーズン2にカメオ出演したガガは、バートン監督との親和性が高い。

アルバム『MAYHEM』や『MAYHEM BALL TOUR』では、第1幕が「Of Velvet and Vice(ベルベットと背徳)」とされるように、光と闇、秩序と混沌、創造と破壊といった二面性が舞台上に並存する。冒頭でガガを想起させる白いクイーンと対峙する赤の“ミストレス・オブ・メイヘム”は打ち倒されるべき敵ではなく、ガガ自身の内部にある否定しがたい一部であり、最終的に融合される存在として表象される。ガガが語る「回復」とは、痛みをなかったことにすることではなく、それと共に生き、歌い、創作することを選び続ける行為のこと。その姿勢こそが、彼女の音楽とパフォーマンスを単なるカタルシスではなく、観る者自身の不完全さを肯定する空間へと変えている。そこに込められたメッセージは、「Born This Way」という彼女の永遠のテーマと軌を一にするもので、つまりは自分のあらゆる側面を愛し、祝福すること。それらすべてが存在してこそ、私たちは完全なのだとガガは言いたいのではないだろうか。そして再認識できたのは、ガガの全キャリアがこのショウの楽曲の中に違和感なく溶け込んでいること。言い換えれば、ガガの楽曲の世界には少しもブレがないということだ。

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伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者。『フィガロジャポン』『SPUR』などのモード誌や音楽媒体で多数のインタビュー、対談記事を執筆してきた。取材アーティストはデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド、宇多田ヒカル、椎名林檎など国内外問わず多数。
X:@natsumiitoh
Instagram:@natsumiii28

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