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決して沈黙しない、ものを言うアーティストとして先頭に立ってきたテイラー・スウィフト。最新アルバムから読み解くメッセージとは?【社会に言葉の一石を。もの言う女性アーティスト特集 第1回】

かつて公民権運動を支えたニーナ・シモン、アレサ・フランクリンといった黒人女性シンガーがいたように、意志を込めた言葉は心を動かし、社会も変えていく。現在もレディー・ガガやテイラー・スウィフトを筆頭に、自身も傷を負いながらも、声を上げて権利を主張し、女性の背中を押していく女性アーティストの言葉の意義は大きい。その声を4回の特集記事で紹介していく。

第1回は、最新アルバム『The Life of a Showgirl』で主導権を取り戻した女性を歌う、テイラー・スウィフトについて。

(文/伊藤なつみ)

第1回 テイラー・スウィフトの場合 

“見られる”から“見せる”へ――『The Life of a Showgirl』が拓く連帯のための音楽

テイラー・スウィフトの最新アルバム『The Life of a Showgirl』はアメリカで10月3日に発売され、初週に400万2000枚(フィジカル+デジタル+ストリーミング合算)をセールスして全米史上最高記録を更新した。さらにアルバムもリード・シングル「The Fate of Ophelia」も初登場第1位に輝き、あらゆる記録を更新している。

しかし注目すべきは数字より、彼女が男性視点の“ショウガール(見せ物としての女性)”という言葉を、自らの舞台で再構築したことだ。

テイラーはこの作品で、愛・喪失・炎上・裏切り・成功といった経験を“ショウ”として上演し、「見られる存在」から「物語を操る存在」へと変えた。彼女がいう“ショウガール”とは、自分の生き様を堂々と見せ、批評の視線ごと引き受ける態度でもある。このアルバムで歌われるのは、ただの成功物語ではない。そこには主導権を取り戻した女性の物語があり、楽曲と共に「声を上げ続ける」テイラーが築いた“連帯のための歌”も流れてくる。

悲劇を書き換える女性像――「The Fate of Ophelia」

オープニングを飾る「The Fate of Ophelia」は、シェイクスピアの悲劇『ハムレット』を現代へと引き寄せ、新しい愛の物語へとその運命を塗り替えている。 中世では“愛ゆえに狂い、溺れて死ぬ女”として描かれたオフィーリアだが、テイラーは「水(感情)に溺れていく女」を「火(意志)によって再生する女」に書き換え、『ハムレット』に登場する“煉獄”などのワードをうまく使いながら、その結末を女性自身の手に取り戻す。 “悲劇のヒロイン”という神話を再演しながら、古典と現代の言葉を行き来させるセンスなどは、テイラーの遠縁にあたる、アメリカを代表する詩人エミリー・ディキンソンからのDNAによるところもあるのだろう。

2曲目「Elizabeth Taylor」で歌われる“ショウガール”のエリザベス・テイラーは、テイラー・スウィフトにとってロールモデルの1人。というのも、“常に監視の目に晒された状況に置かれつつも、ユーモアで苦境を乗り越えて人生を歩み、素晴らしい芸術を生み出し続けた女性”と、リスペクトしているからだ。

アーティストとしてあるべき権利を取り戻すこと

テイラー・スウィフトは、決して沈黙しない、ものを言う女性アーティストのひとりとして、常に先頭に立ってきた。

2025年5月、テイラーは知らぬ間に売買されていた初期6枚のアルバムの原盤権を投資会社シャムロック・キャピタルから買い戻し、「アーティストは自分の作品を所有すべきだ」という強いメッセージを音楽業界に放った。

この経験は収録曲の「Father Figure」に反映されている。ジョージ・マイケルの「Father Figure」(1987)のなかのフレーズ“I’ll be your father figure”をインターポレーション(既存曲のフレーズや歌詞を引用し、再録音して楽曲に取り入れること)して音楽業界の構造に重ね合わせ、テイラーは音楽業界の“父なる権威”を挑発的に描く。モデルは、15歳のテイラーを見出した“父親のような存在”だったかつてのレーベルCEOである、原盤権を第三者へ譲渡したスコット・ボルチェッタだろう。

テイラーは「ずっと言いたかったことを言葉にしたの。ああいうキャラクターになりきって書くのは最高なの!」と、Amazon MusicのTrack by Trackで話しているように、メタ演出でスコットを想像させる人物になりきり、父性の神話を自らの物語へと転化した。6回繰り返されるフレーズ“I protect the family (家族は私が守る)”には、彼女が生んだアルバム(家族)への思いが込められていると考えられる。

彼女が20代半ばで他のアーティストの誰よりも早く、ストリーミングの報酬問題に声を上げ、SpotifyやApple Musicの方針を変えさせたことも象徴的だ。ビジネス的な交渉力は、父が株式ブローカー、父方の祖父は3代にわたって銀行頭取、母も投資信託のマーケティングマネージャーをしていたという家庭環境から培われたものだろう。

そして彼女が若くして音楽ビジネスの在り方を変えたことは、裁判へ向かう気持ちも強くしていく。音楽業界以外にも、その言動力を知らしめたのはセクハラ問題で起訴された時のことである。

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伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者。『フィガロジャポン』『SPUR』などのモード誌や音楽媒体で多数のインタビュー、対談記事を執筆してきた。取材アーティストはデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド、宇多田ヒカル、椎名林檎など国内外問わず多数。
X:@natsumiitoh
Instagram:@natsumiii28

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