2020.12.19
『ギャル即是空』~「色即是空」とは何か? 平成生まれの僧侶が「ギャル」で説明してみた〜
第4章 ニットのたとえ
ニットの毛糸をすべてほどく……? 何をいきなり……!?
なぜか少しドキドキしている自分がいた。
そんな僕の浮ついた心は1ミリも気にかけず、ギャルは質問を続ける。
「このone spoのニットは毛糸とレースでできてんだけど、全部ほどいたら、この毛糸はニットなのかな〜?」
何をいきなり、当たり前の質問をしてきたのか。僕は答える。
「いや、ニットじゃない」
「じゃあ、レースがニット?」
「いや、ニットじゃない」
「だったら、毛糸とレースを寄せ集めたものがニットなの?」
「いや、う〜ん、そういうわけでもない」
「あげみざわなんだけど〜! ニットを成立させてたものは全部あんのに、ニットの形をしていないだけで、お兄さんはその構成物をニットと認識しないの〜?」
ギャル語と組み合わせられた哲学的な問いに、思考回路はショート寸前だった。頭が痛い。
「いや、ニットってなんていうか、毛糸とかを使って、こう、『ニット的に』編んだもので……」
「ニットって何かを聞いてるのに、『ニット的』って、マジウケる(笑)。カニ食いながら『カニ的な味がする〜』って言ってるギャルと一緒じゃん」
「ああもう! 『ニット』ってのは、そういう毛糸とかレースが組み合わさったニット的な『状態』つーか、なんていうか……」
ギャルは初めて「わが意を得たり」とでも言うように、「マジ卍~」と笑った。
僕はそのとき初めて、目の前のギャルの身体が光に包まれていることに気づいた。
第5章 ギャルとは「状態」である
後の話によれば、その日、渋谷には原因不明の嵐が吹き荒れていたという。
ギャルは言う。
「つまり、『ニット』っていうのは、様々な物質が集まって、『ニット』という状態を保ってて、その状態が保たれている間は『ニット』だけど、ひとたびバラバラになったら『ニット』ではなくなるの。『ニット』とは『ニット』という物質があるように見えて、実は様々な物質が『ニット』という状態をつくっているだけなの。わかった〜?」
わかったような気もするし、わからないような気もする。
毛糸もレースも、ニットそのものではなく、ニットという状態に物体が保たれていたということである。
「で、ニットがどうしたんだっけ?」
「ギャルもニットと同じ。ギャルは、つけまつげとかエクステとか、様々な条件のもと、組み合わさってできた一つの『状態』であって。これがウチがギャルっていう『実体』はないって言ってた理由。だから、ウチのことギャルとかって勝手に決めつけて言わないでくれる?」
「ギャルは実体がないって、つまり、ギャルは存在しないということなの?」
「『無』というのも、一つの『状態』に過ぎないの〜。ギャルの条件が『0個ある』という状態と言えばお兄さんにもわかるかな〜。つまり、ギャルは『ある』とも言えるし『ない』とも言えるし『ありよりのなし』とも言えるし『なしよりのあり』とも言えるってこと〜」