2020.12.12
「夫婦のバイブルです」 直木賞作家・佐藤賢一さんが読む『妻が口をきいてくれません』
誠みたいに取り引き先が難しい場合もあります。誠は丸山さんで幸いしましたが、上司が苦手なタイプなときだってある。子育ても大変ですけれど、あいつらにだって大人の理屈なんか通用しません。そのくせ権力ふるえるっていうんだから。
もう本当に、つらい。で、家に帰ると、ついホッとしちゃうんです。もう何も気が回らなくなる。いや、わかっています。甘えです。しょうがない奴なんです。でもね、甘えっちゃあ、妻も甘えじゃないですか。育児が大変なこと、わかってほしい。家事に手が回らないこと、指摘しないでほしい。つらかったこと、傷ついたこと、共感してほしい。うん、わかってあげたいのは山々なんですが、そんな余裕ないんです。あるわけがない。だって、妻にもないでしょう。ダラダラしてる夫を大目にみよう、なんて気にはなれないでしょう。
結局、それです。働いていく。子供を育てていく。つまるところ生きていく。これ、しんどいんです。特に三十代とか四十代は、もう殺人的です。常にいっぱい、いっぱい。そうなると、どうしてだか夫は妻のこと、妻は夫のこと、後回しにしちゃうんですね。
それで妻が口をきいてくれませんと──作中の美咲がやった五年は凄いなと思いましたし、一週間で復活してくれるなんて、おまえ、すごく優しい女性だったんだなと、うちのには急に感謝してしまいましたが、それでも、ううむ、突き放して思いなおすと、差はあれ、どこの夫婦も似たようなものじゃないでしょうか。
共働きの夫婦だって、形は違えど、やっぱりしんどいし、お互いに癒されない。それで不平不満は募るし、絶望すれば会話もなくなる。家庭は確かに地獄なんですけど、それって、けっこう普通のことですよね。
『妻が口をきいてくれません』
だから、もう夫婦のバイブルです。で、地獄なんだからと、丸山さんの選択もひとつ。誠と美咲の道もひとつ。子供も大きくなって、仕事も落ち着いて、夫婦そのものが試されるのって、実はここからなのかなとも思いました。えっ、すでに手遅れ……。
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