2021.11.28
「捨てないパン屋」がアフター・コロナに目指すもの――田村陽至さん×井出留美さん「食品ロス」特別対談
どんな職業でも、お金の勉強は必要
井出 その「豊かさ」というのは、どういうものでしょうか。
田村 お金も時間も家族など人との関わりも、そのバランスをうまくとっていくということですね。やっぱりお金は大事です。どんな田舎暮らしでも今はお金がないと生きていけないですからね。そして、パン屋など飲食店経営者が頑張って月に20万稼いでも、YouTubeとか株で60万稼ぐ人が出てきてしまえば、相対的に飲食店で働く方が貧乏になってしまう。かといって、じゃあ朝から晩まで働いて稼ぎを増やそうとすれば限りある時間が全て仕事に費やされてしまう。いかに限りある時間を仕事だけに費やさずに、必要なお金も稼ぐか、というところが大事になってきます。パン屋のお悩みで“あるある”なのが「一生懸命働いて50個作って、お客さんもたくさんきてくれて、50個売りました。でも赤字で、生活できないんです」というもの。そもそも、200個作って売らないと黒字にはならないという最初の計画ができていないんです。
井出 でも、そこで200個作ろうとしたら、さらに労働時間を増やすことになりませんか?
田村 50個を60、70個にするなら、働く時間を増やすしかないかもしれない。でも50個から200個という4倍にするなら、大きなミキサーを買うとか、効率の良い焼き窯を導入するとか、もっと根本的な解決が必要なんです。そういう場合、変化の最初こそ時間やお金の投資があるかもしれませんが、それほど労力が増えるということはないんですよ。でもこの変化の必要性がわからずに、やみくもに働いて、赤字を出して、疲弊している人が本当に多い。パン屋経営に限らず、お金については、どれくらい必要なのかがわかっていれば、むやみに振り回されることがなくなると思います。いわゆるファイナンシャルプランがあれば、それが“地図”になって、どういう働き方をすればよいのかが、具体的に見えてきます。お金について話すのは下品だと思う人も多いし、僕も昔はちょっとそういう感覚があったのですが、やっぱりお金の勉強は大事。知らない敵とは戦えませんからね。
井出 エネルギーの自活や学校以外に、これからやりたいことはありますか?
田村 次のフェイズという意味では、人を雇うことにしました。職人さんを入れて、自分は少しずつ製造の現場にいる頻度を少なくしようと考えています。労働時間を短くしたとはいえ、朝から昼までずっと重労働をやっていると、さすがにその後は活発に動けないので、学校やエネルギーの実験をやるためには、人に任せていく部分も増やしていかないといけないな、と。広島の店を、独立した研修生に預けるプランもあります。これまでは夫婦でいかに働き方を効率化して豊かになれるかという実験をしていたのですが、それは一区切り。今度は、もっと関わる人を増やしても豊かになれるかという実験をしていきたいと思っています。
井出 今がまさに田村さんの過渡期なんですね。今後の活動も注目しています!
田村 ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!