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あだ名は「粘土」と「虫の裏側」 川村エミコ×爪切男初対談「人じゃないものに分類される喜び」

虫の裏側にたとえられたことが嬉しかった

 共通点といえばあだ名の話もありましたね。川村さんは「粘土」でしたっけ。

川村 爪さんは「虫の裏側」ですよね。

 高校1年生の時に、クラスで一番可愛い子がいたんですけど、全然話せなくて。ある日、その子にいきなり屋上まで来てって言われたんです。屋上に呼び出されるといえば、告白か何かかと思うじゃないですか。屋上で、彼女が振り向いた顔もまた可愛くて。
その子がいきなり、「君の顔ってダニが多そう。顔ダニを退治してあげる」とビンタしてきたんです。その頃ちょうど生物の授業で「人間の顔には顔ダニが何百万匹もいる」ということを学んで、クラスが「わー気持ち悪い」と騒いでたところだったんですね。
そのビンタしてきたマドンナは名家の生まれの子で。いろんなストレスがあって、それをぶつけられるのが俺しかいなかったんだと良いように勝手に解釈してます。
綺麗な人が触れてくれるならビンタでも嬉しいんですよね。美しい人に一度も触れてもらえない人生よりは、ビンタされる人生がいい。

川村 痛みよりも、触れあいたい思いが勝つんですね。

 俺と触れあってくれてるんだな、と。「これからも屋上に来てくれたら私がビンタしてあげるから」と言われて、次の日からせっせと屋上へ通いました。

川村 そういうのってトラウマになっていないんですか? 今も殴られたい願望とか(笑)。

 そうですね、大人になる時にねじくれて残っていて、そういうプレイに走ったことはあります(笑)。

川村 やっぱり! そういうのって後々まで響きますよね。だって、ビンタで好きになったってことですよね。

 うん、嬉しかったですね。そのマドンナがビンタする時に、首にピキって走った血管まで覚えています。

「触れられない人生より、ビンタされる人生がいい!」
「触れられない人生より、ビンタされる人生がいい!」

川村 女子の側も、男子のそういう目線見てますよ!  私も中学生のとき、Sくんがめっちゃシャツの脇の間から、脇や胸を見てくるのに気づいていました。わからないように見てくるんですけど、気づくんです。
その頃の私は、まだそういうのに疎くって、かぶるタイプのスポーツブラを付けてたんですけど、ある日Sくんが「そろそろブラジャーにした方がいいんじゃない?」って言ってきたんです。

 うわ、めっちゃ余計なことを……。

川村 「えーー!」と思って。男の子ってそういうところも見てるんだと、「異性」を感じました。
だからきっとその彼女も、爪さんが首の血管まで見ていたことに気づいて、盛り上がっていたと思いますよ。

川村さんの脇の隙間からSくんが見ていたものは夢かロマンか……。
川村さんの脇の隙間からSくんが見ていたものは夢かロマンか……。

 その彼女はある日「飽きちゃった。もう来なくていいよ」って言ってくれたんですけど。そのとき屋上にカナブンの死体があったのを、彼女が「君の顔ってこのカナブンの裏側にそっくりだよ」って見せてくれて。
でも、僕、自分を何かにたとえてもらったのが初めてだったので、めちゃくちゃ嬉しかったですね。適当な有名人に似ていると言われるより、虫の裏側という独特なものにたとえてもらえたことが嬉しかった。 
結局その思い出から小説ができちゃったわけで(笑)。

川村 それは「クラスの男子に話せるネタができたからおいしい」というような嬉しさですか。それとも「名前をつけてくれてありがとうございます」というピュアな気持ち?

 川村さんが粘土とあだ名をつけられたエピソードでも書かれていましたけど、「センスいい」って思いませんでした?

川村 そう! 私はTくんに粘土っていうあだ名をつけられたとき、どちらかというとピュアな嬉しい気持ちだったんですよ。え、粘土って人じゃないし動かないし形変わるじゃん! 粘土って……すごい!!  みたいな純粋な驚きが最初に来て。
小学生だったというのもあると思うんですけど、「粘土、ワックスがけやってやるよ!」とか、呼び名が川村から粘土に変わったことで「あ、Tくん粘土ってつけてくれたんだ♡」と、特別枠に入れてくれた喜びがありました。上下ではなく、粘土というジャンルに分けてくれたんだ、と。

「Tくん、粘土に分類してくれてありがとう!」
「Tくん、粘土に分類してくれてありがとう!」

川村 これを今話すと「それは辛かったね〜」とか言われることがあるんですけど、いやいや全然! きっとTくんの中でも「粘土」として覚えていてくれているだろうなと思うだけでワクワクして嬉しいし、今も笑顔で過ごしていてほしいなと思うし。さらに芸人になってこういう話ができるし、ありがとうが足されていく感じですね。
私はこういう話をエッセイにも書かせていただいたんですけど、爪さんはどうですか?

 時代もあったと思うのですが、当時は男子の方が面白いことを言うものだというイメージがあったんですよ。ところが女性から、「虫の裏側」なんて男子も言えないような面白いセンスのあることを言われたのが、まずカルチャーショックで。
高校時代、僕は色白だったんですけど、中学時代のニキビの名残が鼻に残っていて顔の中心部分だけ赤かったんですよ。それを見たクラスメイトの女子から「ジャパン」ってあだ名をつけられたこともありました。
なんで?って聞いたら「お前の顔の色の配置が日本の国旗と同じだからジャパンだ」と。
その時も衝撃。「赤鼻のトナカイ」と呼ばれていじめられたことはあったけど「ジャパン」って……と。
でも思春期だったし、鼻が赤いのは嫌な気持ちもあったんですね。クラスの嘘つきなT君という男に「深呼吸をたくさんすると鼻って白くなるんだよ」と言われて、僕は授業中も休み時間もずっと深呼吸をするようになったんです。「スーハースーハー」って。
そうしたらさっきのクラスメイトの女の子に「お前、今日からサイボーグジャパンな」って言われて(笑)。

川村 スーハー、スーハーしてるからね(笑)。
でも爪さんのこと「お前」って言ってる時点で上から来てますからね。それはなんとも思わなかったんですか?
私はTくんに愛を感じていて、例えば私がいじめっ子から「鼻くそ溜まってんな」ってからかわれた時も「そういうのやめろよ」と庇ってくれたりしたから、その彼から粘土って言われても、乗り越えられていた部分があるんですけど。

 なんだろう。僕も川村さんと同じで「サイボーグに分類してもらった」というありがたさがあったと思います。

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川村エミコ

かわむら・えみこ●1979年神奈川県生まれ。お笑いコンビ『たんぽぽ』のボケ担当。主な出演作品に日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』、フジテレビ『めちゃ2イケてるッ!』、東海テレビ『スイッチ!』など。
オフィシャルブログ→https://ameblo.jp/sienne04
Twitter→https://twitter.com/kawamura_emiko
YouTubeおかっぱちゃんねる川村エミコ公式動画館→https://www.youtube.com/channel/UCGkqb7PyCVGojtVkAOL58Bg

撮影:齊藤晴香

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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