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あだ名は「粘土」と「虫の裏側」 川村エミコ×爪切男初対談「人じゃないものに分類される喜び」

早いうちから「もう一人の自分」がいた

――お二人とも子どもの頃から観察眼や諦念があって、どこか達観していますよね。なぜそれができたのでしょうか。

 心の中に「もう一人の自分」が早いうちからいましたね。学校ではそいつが教室の後ろの方にポカンと浮かんでて、常に客観的な目線で僕のことを見守ってくれてるんですよね。家に帰ってからは「もう一人の自分」と反省会をしたりしていました。

川村 わかります! 3歳の時に「えみちゃんは一人で生きていけるよ。一人でなんでもできるでしょ」と言われながら、階段をえっちらおっちら登っているのを、誰かが後ろから見ている。それが私の最初の記憶です。
私の場合は男の子だったんですよ。「ヤミ蔵くん」って名付けてました。

 名前もつけていたんですね(笑)。

川村 はい。ヤミ蔵くん、懐かしい~。

 僕らが子どもの頃、多重人格の小説とか流行ったじゃないですか。クラスの奴らはすごい怖がっていたけど、俺は「あの人は“セカンド自分”をたくさん持っているんだな」くらいの感じで、あんまり怖く感じなかった。むしろみんなもセカンド自分を持った方がいいんじゃないかと思っていました。

爪作品には“もう一人の自分”と共に見てきた思い出が描かれている。
爪作品には“もう一人の自分”と共に見てきた思い出が描かれている。

川村 私の場合は高齢出産で4回流産を経てやっとできた子どもだったんですよ。だから幼稚園くらいからもう一人の自分が出てきたときに、亡くなったお兄ちゃんが来てたのかなって思ってました。どこか申し訳ない気持ちもあって、そこに自分が乗り移って見ているんだって思っている時期もありました。怖いからあんまり外では言わないようにしてたんですけど。

 親の話では、僕も生まれてすぐの頃に高熱を出して危なかったらしいんです。生き死にに関わることを経験するのと何か関係あるかもしれませんね。

川村 あとは、高齢出産だったから、いとこがみんな年上だったんです。私が小学生の時に高校生大学生とか、みんな大人だった。だから少しだけ大人びていたというのはあるかもしれません。人との距離感を反復横跳びのように調整してみたり。周りは変えられないけど、自分や自分の心の置き方を変えていくことができるというのを学ぶのが、比較的早かったかもしれません。

ヤミ蔵との思い出を語る川村さん。
ヤミ蔵との思い出を語る川村さん。

――自分の置き所というか、処し方を小さいころからわかっていたというのがすごいし、お二人の共通点のようにも思うのですが。

川村 うーん、自分の立ち位置はわかっていなかったと思うんですけどね。ああしたらいいのかな、こうしたらいいのかな、と、ただ一生懸命生きてきただけというか……。

 自分のこともですけど、クラスメイトのことも観察してましたよね。友達のAくんがクラスで何かやらかしたとき、今日中になんとかしないといじめられるぞと思っても、口には出さずにA君がどう動くかを観察しているというか。クラスメイト全員、先生のことも俯瞰して見ている自分はいました。一人一人のドラマが重なってクラス全体で大河ドラマになる感じで。

川村 それが爪さんのすごいところですよね。

 川村さんはエッセイの中で、幼稚園の先生に「静かでいやだ」と言われたというすごいエピソードを書かれていましたよね。

川村 はい。幼稚園の頃、「あの子静かでいやだわ~」「楽でいいじゃない」という先生の会話を聞いてしまって、そこから大きい家具に追いかけられる夢を毎日見てました(笑)。

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川村エミコ

かわむら・えみこ●1979年神奈川県生まれ。お笑いコンビ『たんぽぽ』のボケ担当。主な出演作品に日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』、フジテレビ『めちゃ2イケてるッ!』、東海テレビ『スイッチ!』など。
オフィシャルブログ→https://ameblo.jp/sienne04
Twitter→https://twitter.com/kawamura_emiko
YouTubeおかっぱちゃんねる川村エミコ公式動画館→https://www.youtube.com/channel/UCGkqb7PyCVGojtVkAOL58Bg

撮影:齊藤晴香

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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