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鎌倉育ちの作家・甘糟りり子が愛してやまない四季を彩る和菓子たち〜「美鈴」

 なんといってもオススメなのは十月の「栗羊羹」。名前も形もなんのひねりもしゃれもないのだが、一本すべてが黄金の羊羹だ。白餡を使った羊羹の部分に栗をすりつぶして混ぜてあって、その上ごろんと栗も入っている。私ならこれ、金塊に見立てるかなあ。つい発想が下世話になってしまって悲しい。光り輝く見かけだが、味わいはうっすらとはかなげな甘さが印象的だ。
 煮る前に栗の渋皮を剥く作業がかなり大変だそうで、ある秋の日の午後、「いつまでこれを続けられるかしらねえ」と女将。この羊羹がなくなるのは困ると思った私は、前のめりに「十月だけ、お手伝いに来ます」と志願したのだが、「あれは大変ですよ」とやんわり断られてしまった。多分、戦力にならないというご判断だろう。

透き通った一切れに鎌倉の秋が凝縮されたかのような栗羊羹。甘糟さんの器使いにもうっとり。
透き通った一切れに鎌倉の秋が凝縮されたかのような栗羊羹。甘糟さんの器使いにもうっとり。

 十二月は「木枯」。三角に作った餡子の棹物で、これは合掌造りの屋根とそこに降る雪に見立てたもの。私の家も、私が十五歳の時、福井県の農家から大きな梁が運ばれてきて、家の半分が合掌造りに改築された。十二月にお客様や友達が来る時は、お茶請けに木枯を出してそんな話をする。赤い紙と白い薄紙に包まれた合掌造りのお菓子にご縁を感じるのだ。

 美鈴の上生菓子を味わうと、日本の生活は四季とともにあるのだなあと思う。鎌倉の手土産を買うなら、まずここに足を運ぶことをオススメする。

月替わりの菓子箱は、季節を称える詩が綴られた包み紙にくるまれて。
月替わりの菓子箱は、季節を称える詩が綴られた包み紙にくるまれて。

鎌倉育ちだから知っている、美味の数々が1冊に

書籍『鎌倉だから、おいしい。』では、他にも、お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)などなど、鎌倉の素敵なお店が、甘糟りり子さんの思い出とともに紹介されています。

ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っている魅力的な世界に出会える1冊。読むだけで、四季それぞれの鎌倉散策を楽しんでいるような気分に浸れるエッセイ集です。詳細はこちらから

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甘糟りり子

あまかす・りりこ●作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻く文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』(講談社)は5刷に。そのほか『産まなくても、産めなくても』(講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本や、鎌倉暮らしや家族のことを綴ったエッセイ『鎌倉の家』(河出書房新社)など好評発売中。

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