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あなたの飲み方、大丈夫? 酒にまぶしてしか本音を語れない男たち

男はバカにならないと団結できない

斉藤:田中先生は、お酒は飲まれないそうですね。

田中:僕自身は飲まないですね。父親が飲めないのですが、自分もアルコールを分解する酵素がないタイプで、気持ち悪くなってしまいます。だから僕は飲み会に行っても、何も楽しくない(笑)。
 飲んでいるとみんな、どんどんバカになっていくじゃないですか(笑)。同じ話をずっとしたり、自慢話もするし、説教臭くなる人もいる。とにかく絡んでくるわけですよ。だから、本当に酒の席の2時間が耐えがたいんですよね。でも、行かないとしょうがない場面もあるので行くわけです。
 なんでこの人たちは、好きこのんでバカになってるのかと思っていたら、酒の席ではみんな酔っているから、この仕事を成し遂げなきゃいけないというときに、「そうだそうだ!」「頑張るぞ!」みたいな感じになれるわけですね。僕は飲まないから、しらふで「こんなこと全然、実現性ないですよ」とか「このプランには穴がありますよ」とか「それには協力できないです」とか、平気で言ってしまいそうになるんですけど、酒を飲むのは、酔って一致団結するためなんだと思いました。

斉藤:いわゆる「飲みニケーション」ですね。酒の席で、みんなで取りあえずこれやろうぜという気持ちにさせれば、会社とか組織にとっては物事が円滑に進むことがあるということだと思うんです。

イメージ画像:写真AC
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田中:でも、現実にはもうそうしないほうがパフォーマンスは上がるという考え方になってきていますから、家庭の事情や個別の事情を顧みず、一つの目標に向かってとにかく一致団結していくというのは、今だったらパワハラ認定されると思います。
 この間、4歳の息子がネットで何年か前のヒーロー映画を観ていたんです。僕が子どもの頃に『宇宙刑事ギャバン』という特撮ヒーローシリーズがあったのですが、そのギャバンと、仮面ライダーと、スーパー戦隊が一遍に出てくるっていう映画で。
 彼らも三者三様で、わりと利害の対立があったりして、中盤までごちゃごちゃ揉めているんですけど、一応ヒーローものだから「悪」と戦わなきゃならない。どうやって一致団結するのかな、と思っていたら、最終的にはなんとなく、「あいつが悪いんだろ」って、勝手に合意が形成されていたんですよ。お互いの正義を戦わせて、というプロセスじゃなくて、「俺ら細かいことはわかんないけど、あれが悪みたいだからやっつけちゃおうぜ」っていう流れなんです。驚きました。
 でも、少年漫画やアニメの主人公って、よく考えてみたら大概頭空っぽに描かれているじゃないですか(笑)。そういうことにしておかないと、戦ったりできないからなんですよね。何が悪で何が正義かっていうのは、本来簡単には決められないことなんです。だから、バカで細かいことは気にしないってことにしないと、冒険に出たり、敵をやっつけたりなんてできない。彼らを見ていたら、男性がお酒を飲む理由が、なんとなくわかった気がしました。

斉藤:酔っぱらうと、子どもに返って退行できるという面もあります。アルコール依存症の人たちが酔ってどういうメッセージを発しているかというと、「こんなみじめで駄目な俺をなんとかしてくれ」というSOSなわけです。アルコール依存症の人たちは、とにかく周りのケアを引き出すのが上手です。ケアを引き出す達人ですね。
 つまり、飲酒行動自体が妻や周りの人からのケアを引き出すスキルとなっている。もしかしたら死んじゃうかもしれないから、放っておけない。それで、周りも手を出さざるを得なくなる。彼らは、そういうことを戦略的にわかってるんです。まさにケア行動を引き出すという名のコントロールです。そういう意味では彼らが生き延びていくためのサバイバルスキルが嗜癖行動です。普段、社会の最前線で頑張っている男の人が、酒を飲むことで退行する、子どもになれるというメカニズムはあるかと思います。

田中:それも非常に納得がいきます。僕が大学院生のときバイトしていた塾の塾長が信じられないぐらい駄目な人で、彼の指示を待っていると何も回らないんです。そうなると何が起こるかというと、みんなで彼をなんとか助けようとする。最も駄目な塾長のために、本来休みだったはずの日に来たり、代わりに日誌を書いてあげる。でもそれは結局、彼に支配されているんですよ。だって、あなたが自主的にやったんじゃないかって話になりますからね。それも一種の権力の発動の仕方で、巧妙ですね。

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田中俊之

たなか・としゆき
1975年生まれ。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。博士(社会学)。
男性学の視点から、男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
著書に『男性学の新展開』『男がつらいよ——絶望の時代の希望の男性学』『〈男〉はなぜ嫌われるか』『男が働かない、いいじゃないか!』『男子が10代のうちに考えておきたいこと』などがある。

斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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