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あなたの飲み方、大丈夫? 酒にまぶしてしか本音を語れない男たち

男は「弱さ」について語りたがらない

斉藤:プレアルコホリックもアルコール依存症の人も、なぜ飲みすぎる必要があるのかを考えると、歯止めがきかない飲酒は、その人の抱えている問題と相関があるんです。本当はしらふで「助けてほしい」「自分のこの思いをわかってほしい」と言語化できればいいんですが、男性は、男らしさのとらわれからそれを言語化して、援助希求するのが苦手だと思います。
 私はクリニックに就職した1年目のときに先輩から、「そういう仕事の仕方をしているとバーンアウトするよ。あなたの1年目の課題は、一日に3回職場で先輩でも誰でもいいから助けてと言いなさい。これは業務命令です」と言われたんです。最初は自分が何か患者さんの対応に困っていることがあったとして、それを他者に伝えたからといって解決するんだろうかと思っていました。相談しても、いきなり患者さんの酒が止まるわけじゃないですし、何かその人の生き方が劇的に変わるわけじゃない。だから、相談する意味があるのだろうかと思ったんです。そんなことでは専門職としての力量はつかないだろうと。でも、私も体育会系気質だったので、言われたらやらないといけないと思って、とにかく一日3回、SOS(相談)を出しました。
 男性は弱音を吐かないとか、SOSを出せないと言われますが、弱さをオープンにすると、こういうメリット、例えば周りのエンパワーメントになることがあるんだという学習をしていないと、たぶんいつまでたっても実行はできないと思います。
 以前、長年酒をやめている当事者から、「斉藤さんの話を聞いていると、昔の良かった話しか出てこない。あなたの弱い話が聞きたいんだ」と率直に言われて、はっとしたことがありました。頭をハンマーで殴られたような感覚とはこのことでしたね。自分の成功体験ばかり話すのは自分に恐れや傲慢さがあるからで、謙虚にならないと自分の弱さはオープンにできない。つまり自分に足りなかったものは謙虚さだったということに気づいたんです。それから1年間は、いろんな人に相談して、相談先の選択の仕方がうまくなりました。そうすると、患者さんとも職場の人とも関係性がすごくよくなっていったんです。自分が変わることで、周囲の景色が大きく変わってきました。

田中:その話は非常に面白いですね。男性学のパイオニアである伊藤公雄先生が、男性の持ちがちな傾向として、「権力」「所有」「優越」の三つの志向性について述べています。競争に勝つ、つまり優越すると権力が持てて、権力が持てるといろいろなものが所有できて、それにはお金、人脈、文化資本といったものも含まれます。そうするとさらに競争に勝ち、さらに大きな権力を持ち、さらにたくさんのものを所有して、どんどん勝ち抜いていける。
 社会的に成功している人に限らず、男性は状況を一人でコントロールしなきゃいけないと思う傾向があるんじゃないでしょうか。「優越」がなければ、「権力」も「所有」もなされないわけですから。
 そうした男性の志向性は、アルコール問題が深刻化する要因にもなるんじゃないかと思います。つまり、今確かに依存症っぽくなってきているけれども、これは一人で解決できる程度のことだ、と思い込んでしまうのかもしれません。百歩譲って本人が認めたとすると、それは謙虚さを身に付けたというか、自分がとらわれている男らしさ、問題を自分でコントロールして解決できるはずだという思い込みから抜け出せたということなのだと思います。

斉藤:「否認」と呼ばれるものですね。

「否認の病」の背景にある男らしさ

田中:自分の問題、困っていることを認められない心理に、男らしさへのとらわれがあるのではないかと思います。
 僕の理解では、日本における「女らしさ」は、他者と協調するのに向いている特性をたくさん持っていることだと考えられていると思います。アルコール依存症に限らず、嗜癖的な行動は非常に自分本位的で、他者との協調性を欠いているから、女性のほうがより問題行動に見えるのが早いと思うんです。だから、男性は破滅的なことになるまで治療を受け入れられないという傾向はありえそうですね。

斉藤:アルコール依存症の教育プログラムではよく「アルコール依存症は否認の病」と言われます。自分に酒の問題があると認められないから、毎度問題が起きていて、周りはやめてくれと思う。でも、本人だけがいい酒だと思っていて飲み続ける。それで、結局は健康問題や事故、家庭内の問題や仕事の問題、犯罪といったアルコール関連問題が出てくる。それを繰り返して、本人がいろいろなものを失うことで、痛みを感じて初めて治療につながる。昔の依存症治療では、生きるか死ぬかのどん底を味わって初めて回復するとされていました。いわゆる「底つき」理論です。
 われわれはこの否認に対してどう効果的にアプローチするかを考えてきました。否認は治療に対する抵抗や反発なので、そこは否定せずに両価的な気持ちを考慮しながら「抵抗とともに転がる」という否認への新たなアプローチ方法である「動機づけ面接」という手法も開発されました。
 しかし、先ほど田中先生が指摘されたように、否認の背景に「男らしさの呪縛」がある、という視点では今まで見てこなかったので、はっとしました。

イメージ画像:写真AC
イメージ画像:写真AC

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男性同士のコミュニティで交わされる「酔った上の本音」が、SOSのサインの可能性も。後日公開予定の対談後編では、お酒抜きで成立するコミュニケーションの方法を探っていきます。

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田中俊之

たなか・としゆき
1975年生まれ。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。博士(社会学)。
男性学の視点から、男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
著書に『男性学の新展開』『男がつらいよ——絶望の時代の希望の男性学』『〈男〉はなぜ嫌われるか』『男が働かない、いいじゃないか!』『男子が10代のうちに考えておきたいこと』などがある。

斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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