2020.9.20
40年休載なしの『こち亀』作者に学ぶセルフマネジメントの極意~秋本治の仕事術その1
Q.苦手な仕事がまわってきてしまった……どうしよう
毎分、毎秒、楽しいことや得意なことばかりができれば最高ですが、そうもいかないのが仕事というもの。
時には苦手な業務、あるいは複雑な人間関係を乗り越えて、成果を出さなければならないときもあるでしょう。
でも、ここでただ「嫌だな〜」と思えば思うほど、心身への負担は大きくなるもの。
ズルズルと後回しにすれば納期は迫り、仕事相手への心象も悪くなるし、負のスパイラルが続くばかり……。
ならばちょっと発想を変えてみてはどうでしょう?
嫌な仕事がきたときの対処法を身につけ、日々前向きに、楽しく働くことができるようにするのです。
そのために学びたい、秋本さん流の「苦手克服法」がこちらです!
A.この仕事は大変でやりがいがある、そんな自己暗示で苦手な仕事も乗り切る
自分がプロだと自覚し、お金を稼いでいる分野では、どんな難しい仕事が来ても「できません」と答えることはできません。僕の場合はマンガですが、ときには辛いと感じる難しい仕事もあります。でも、そこはなんとしても乗り越えなければなりません。
そんなとき僕は「ああ、この仕事は大変でやりがいがあるなぁ」と思うようにしています。一種の自己暗示のようなものでしょう。
マンガではありませんが、過去に本当に苦手な仕事をしたことがありました。ジャンプの漫画家チーム対フジテレビチームで、野球の試合をするという企画に駆り出されたのです。
当時の連載陣の中で、本宮ひろ志先生や高橋よしひろさんなどはもともと大の野球好きですから、本当に楽しい仕事だったでしょう。いや、もはや仕事だとも思わず、心から楽しんでいたと思います。
でも僕は野球経験ゼロ。バットの持ち方すらさっぱり分からないまま、バッターボックスに立たされる羽目になったのです。「秋本くん、ボールを見てるだけでいいから。向こうはファールだからだめよ。こっちに打ってよ」と、初歩的すぎるアドバイスを受けるレベルです。
試合会場はなんと横浜スタジアムでした。野球好きな仲間は「おー、本物のグラウンド」と喜んでいましたが、まったく関心のない僕にはそんな感慨もわかず、「とにかく早く終われ」「ボール飛んでくるな」とひたすら願っていました。
でも、その辛い経験のあと、実に楽しい世界が待っていました。一試合体験したら、野球って面白いかもと思った単純な僕は、漫画家さんたちとともに野球チームをつくったのです。ちょうど漫画家の間で草野球がブームになっていたので、いろんなチームと対戦もしました。もちろん急に上手になるわけではないので、一番ボールが来ないというライトを守っていましたが、マンガ以外の楽しみがひとつ増えたと思いました。
全然知らなかった野球を体験し、やがて好きになっていく僕のその経験は、『こち亀』の両さんにそっくり置き換えて、一本描くこともできました。
苦手な野球を克服したことで、本業のマンガ世界もより広がりを見せたのです。