2020.9.12
爪を隠さず見せびらかす鷹男~それならスピッツ聞いていた方がマシな話
基本的に彼女の店では60分コースと90分コースで射精は一回、120分コース以上では2回と決められているにもかかわらず、話が長くて射精が早いこのマウント男は彼女にオナニーさせることでうまいこと2回目のプレイを引き出そうとしているようだった。
すでに2人の接客をおえていた彼女のクリトリスはヒリヒリしてリビドーどころじゃなかったんだけど、彼女の自慰行為をみて彼が勝手に自慰を始め、勝手に射精してくれればそれが一番角がたたないかも、と思って言う通りにした。
そして思惑どおりに彼も自分のペニスを触り出した。
「普通の子じゃわかんないかもしれないけど、君ならこのペニスと象徴的男根のファルスの違いはわかるかな。わかんないか。少し舐めてみる?」
ファルスが何であれ彼女が最も嫌うのは上から目線の客とコンドームを外した後の性器を舐めることなので、彼の手を少し手で触れたところ、すっごいいいタイミングで終わりのシャワーを知らせるタイマーが鳴り、彼女は「タイマー! マイフレンド! さすが私の相棒や!」と心で叫びながら、性器を掴んだ手をさっさと離し、「時間なくなっちゃったね、残念、一緒にシャワー浴びる?」と聞いた。
しかし当然ビンビンの彼はこのタイミングで彼女に起き上がってほしくない。モジモジしながら「もうちょっとして」と言ってくるが、延長を薦めるとそれは渋り、彼女の手を自分のペニスだかファルスだかに押し当てて、「ねえ、すごいでしょ、イかせて! 僕の! ああリビドー……」と言って勝手に射精した。
人間誰しも得意分野というのがあってベッドならベッド、街なら街、大学院なら大学院のマウントの取り方というのが存在するが、別の分野でとれるマウントを別の場所に持ち込んでも、それは単に滑稽なだけで、せいぜい風俗嬢の間でリビドーというあだ名で語り継がれるくらいの功績しか残せない。
早漏で性経験も浅い彼は、なんとか自分の威張れるポイントでベッドの上でも威張ろうとしてきたのであるが、ベッドで必要ではない鷹の爪をスカルプチュアばりにビンビンに見せられても、彼女はひたすら興ざめするだけで、ベッドでまどろむ彼を残してさっさとシャワーを浴び、身支度を始めた。
ちなみにこの種の、どうしても知識で威張りたい男の浅はかさの試金石は彼の威張りたい分野で彼の知らない知識を見せてみることである。
聡明な彼女はそのことをよく知っていたし、90分コース以上を頼む資金力もない男のリピートに頼るほど落ちぶれてもいなかったので、こんなことを言ってみた。
「たしかラカンのファルス理論を強烈に批判するスタンフォードの先生の論文が数年前話題になりましたよね、ほら、なんだっけ、あのもともとユングで有名な論文も書いてるひと」
彼女はスタンフォードの誰かがファルスについて書いたかどうかなんて全然知らなかったし、多分そんなひとは存在しないのだけど、堂々と話し、彼の反応を待った。
「あー、えーとうんうん、わかる、誰だっけなぁ、あれも面白い指摘だよね」
彼女は彼が、能ある鷹ではなく爪の長い鷹でしかないことを確信し、相棒のタイマーをバッグに入れてホテルを出た。
知識で威張る男は、自分の無知を認めない。
よって、ありもしない事実を知識として目の前に出されると、まるでそれが存在するかのように振舞って、裸で街を練り歩き、純粋な子供に指摘されて笑われるまで踏ん反り返って見せるのである。
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