2020.9.12
爪を隠さず見せびらかす鷹男~それならスピッツ聞いていた方がマシな話
女は知識がある男は好きだけど、知識で威張る男はとにかく嫌いだ。
普段見せずに本当にさりげなく見えるというのが一番いいのだけど、やっぱり極端に知識がある人というのはある意味変態的なところがあって日常的に知識だだもれの人というのもいる。
これが結構紙一重で、私の会社の先輩でもう本当に地方自治・地方行政マニアな男の人がいて、合コンで相手の女の子がうっかり出身地などを言うと、「君の生まれた島根県の大田市から少し南の地区で現在邑南町になっている自治体は非常に子育て施策が充実していて」と長々と話し出してしまう人がいたのだけど、彼は本当に四六時中地方自治体の独自の生き様について考えているので、「彼氏にはちょっと……」とか「ややキモい」とか思われることはあっても憎まれることはそんなにない。彼は何も威張っているわけではなく、本当にほかに話すことがないのだ。
私が今まで見聞きした知識で威張る男で金字塔を打ち立てたのは、とある高学歴デリヘル嬢が接客した大学研究員で、私たちの間では長きにわたってリビドーの愛称で語り継がれている男である。
彼は新宿区内のラブホテルで彼女に対面するなり、「ちょっとごめんね、色々散らかってるけど」、と安ラブホのテーブルの上にこれ見よがしに後輩だか学部生だかが書いたレポートを彼が赤ペンで添削したものなどを並べて、「もうほんと、最近の学生ってコピペとかしてくるからさ、こっちから見ればそんなのすぐわかっちゃうのよね」と言ってきた。
気の利いた風俗嬢である彼女は客が素性を隠したがっていれば仕事の話などせず、逆に客が聞いて欲しそうであれば「どんなお仕事されてるんですか?」などと聞いてあげるそうだが、聞いてほしいの極みみたいなその姿に若干げんなりしつつ、「先生でいらっしゃるんですか?」と聞いてあげた。
「うーんまぁ近いかなぁ、あはは、でも高校の先生みたいなのじゃないんだよ、高校生がドゥルーズとかについて書かないでしょ」
彼がこれ見よがしにレポートの一部を彼女に見せながら答えた。彼女は文系の一流私立大を優等な成績で卒業し、一度は有名企業に就職した身であるが、店舗のプロフィールで年齢を大幅に下に申告しているため、特に正直な自己紹介はしない。
ただ、単に「じゃあ大学の先生?私も大学生です」とだけ言った。
「大学行ってるんだ? じゃあ君ならわかるかもね、僕は研究員で非常勤でいくつか授業も持ってるの。普通わかんないからこんなこと言わないんだけどね。で、現代思想の授業のレポートの採点がどうしても間に合わなくて。こんなところで仕事広げてごめんね、シャワー浴びてきていいよ、僕はもう浴びたから」
普通わかんないから言わないと言いつつ、彼女が大学生である旨を伝える前にドゥルーズなんて発音がちょっと頭良さげに聞こえる固有名詞を選んで話してきたし、そもそも明らかに仕事道具を散らかして置いているし、大体どうしても採点が終わらないのにしっかり90分コースでデリヘル呼んでるお前に、嬢と一緒に入ることになっているシャワーを勝手に一人で浴びて時間稼ぎをする自由はない!と彼女は静かに憤り、「丁寧に洗ってあげるから一緒にはいろ?」と半ば強引に彼をシャワールームに引き込み、グリンスでゴシゴシ下半身を洗って、とっととベッドに押し込んで早めにプレイを終わらせることにした。
このあたりまでは、普段から溜まっているルサンチマンを風俗嬢にマウントを取ることで多少でも解消しようとする安易な男にありがちなレベルではある。酷いのは、彼が一度素早く射精してからのピロートークだった。
「女性のクリトリスって元々は男性のペニスだったって言われているんだよ、そう、ちょっと自分で触ってみてごらん、そう、そうやって撫でてるとちゃんと勃起するでしょ?で、フロイトはね、肛門期に続く男根期が、男ならペニス、女ならクリトリスを通じてリビドーが形成されると言ってる。そうやって自分で触ったりする? 感じる? リビドーがクリトリスに集中しているんだよ」