よみタイ

人気翻訳家・村井理子さんの読書案内から「よみタイ」編集部員のイチオシ本を紹介!

翻訳家・村井理子さんの人気連載「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」。
この連載では、毎回エッセイのラストに、最近村井さんが読んだ本が紹介されています。これまで取り上げられた本は、コミックからエッセイ、実用書まで、そのラインナップは様々です。
今回は、そんな読書案内の中から、よみタイ編集部員が読んで、特に心に残っている本を感想コメントとともにご紹介します!

(構成・文/よみタイ編集部)

編集M『ビジュアルマップ大図鑑世界史』

「中学三年受験生の悩める母の夏―追いつめられているのはなぜか」(2021年7月26日公開)で紹介された本

DK社編著、スミソニアン協会監修、本村凌二日本語版監修『ビジュアルマップ大図鑑世界史』(2020年5月/東京書籍)
DK社編著、スミソニアン協会監修、本村凌二日本語版監修『ビジュアルマップ大図鑑世界史』(2020年5月/東京書籍)

年齢や属性が多少なりとも近いこともあり、村井さんの描く内容は、介護やきょうだいのこと、そして子供のことと共通項が多く、いつも「なるほどなあ」と唸らされてばかり。そんな中でまさに「私のいま!」にジャストだったのが、この回でした。
中一長男を筆頭に3人の息子を持つ身なのですが、まさに中一長男が世界史と世界地理で1学期大きくつまづき赤点……。私自身、歴史も地理も好きだから息子ももちろん得意なはず、なんて親の勝手な気持ちがあり少しショックを受けていたタイミングでのこの回だったのです。『ビジュアルマップ大図鑑世界史』、読まないわけにはいきません。

結果は、村井さんの言葉通りになりました。

勉強しろというオーラをさりげなく子どもに送り続けていたら、自分が受験モードになってしまった。気づいたらページをめくっている。息子たちに買い与えたつもりが、自分が必死。これだから私は困る。開いただけで心躍る。子どもの頃の自分に言ってあげたい。ねえ、読みなよ、すごく面白いから。心臓をぎゅっと掴まれてしまうほど、素晴らしい世界が、物語が広がっているから。大人にならないとわからないことってたくさんあるなあとしみじみ思う。

歴史を時系列で追い、年号を覚えさせる教育に疑問を持つ人は少なくないはず。歴史を学ぶ本質や面白さは、たとえばその事件が起きた因果関係や、事件が起こった国や地域の気候、文化、風土など=すなわち地理と密接に絡みつくことで、偶然の連鎖とも必然の連鎖とも思えるストーリーがいまを生きる自分につながっていることにあるからです。もちろん歴史は日々増えていくので、限りある学校教育でそのすべてを伝える教えることなど不可能ではありますが。

『ビジュアルマップ大図鑑世界史』は、まさにその本質がきちんと伝えられていました。「フランス革命」のような事件ものはもちろん、「19世紀の人口大移動」のような多彩なテーマ切りで世界の地理も見えてくる。大人がわくわくして読んでしまいます。「ペスト(黒死病)」のテーマもありましたが、ここにいまの「新型コロナウイルス」を組み込むイメージをして読んでみたり。ということで、我が家も、子どもたちではなく親が楽しむ一冊となってしまいました。それでも、彼らが学校での勉強を経てこの本を読んだら、いまの私と同じように楽しめるだろうという未来の歴史も見えました。

編集H『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』

「翻訳家というミステリアスな職業——ギリギリの生き方をしてまでなぜ翻訳をするのか」(2020年12月14日公開)で紹介された本

宮崎伸治『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』(2020年11月/フォレスト出版)
宮崎伸治『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』(2020年11月/フォレスト出版)

ハイペースで翻訳書とエッセイの刊行が続いている村井さん。そんな村井さんでも、「翻訳で食べていくのは無理!」とのこと。翻訳家という職業は、わかりやすいルートが舗装されたものではないということがよくわかる回でした。そこで紹介されたのが、『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』です。

衝撃的なタイトルです。特に「職業的な死」のあたりが恐ろしすぎます。
フォレスト出版からは、同書のシリーズ的位置づけとして『交通誘導員ヨレヨレ日記』『派遣添乗員ヘトヘト日記』等の既刊があり、いずれも著者のクセが強く大変面白いのですが、この『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』は、妙に身につまされ、いつまでもザラッと胸に残るものがあるのです。
本書を読んで気づいたのは、人は究極的には、自分の存在意義のために仕事をしているのであり、それが果たされなければ心が折れてしまうということです。また、どんな仕事であっても、人間と人間のかかわりから生まれる煩わしさが、その苦しみの大半を占めるというのも変わらないのでしょう。著者である翻訳家の気持ちになって歯噛みしたり、激しく追及される編集者サイドになって肝を冷やしたり、どちらにせよ出版関係者ならば他人事とは思えない出来事の連続で、大変スリリングな時間を過ごせました。
ギリギリの生き方をしてまでなぜ翻訳をするのだろう、と自身に問いかける村井さんが「私の胸いっぱいに広がる喜びは、数字だけでは計れない類いのものであって、だからこそ、このミステリアスな世界に居座り、苦しい、もうダメだとうめきつつも、せっせと仕事を続けているのだろう。」と書かれているように、目に見えない何かを信じる心が、本を作るという行為には確かに存在するような気がします。

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