2021.8.29
注目対談! 『全裸監督』本橋信宏×『限界風俗嬢』小野一光「 ノンフィクションライターの歩き方」
対談前編では、同じ時代にノンフィクションライターとして身を立て、活躍してきたなかでの共通の思い出や同士たちにまつわるエピソードを語っていただきました。
(構成/よみタイ編集部、撮影/齋藤晴香)
30年以上前から「ニアミス」の二人
小野 僕は33~34年前に白夜書房にいたんです。当時はまだ少年出版社という社名があった頃で、本橋さんが『ビデオ・ザ・ワールド』(編集部注:白夜書房からコアマガジンに移って刊行していたAV情報誌。2013年に休刊)にAV女優インタビューを書いてらした時代ですよね。
本橋 どこの編集部にいたんですか? 『ビデオメイト』?
小野 『ビデオメイトDX』の前ですね。『クラスメイトDX』っていうのをやってました。そのちょっと前からバイトで白夜にいて、創刊時に移動したんです。
本橋 コアマガジンですれ違ったりしました?
小野 お見かけはしてました。中沢さん(編集部注:中沢慎一氏。現・コアマガジン代表取締役社長)からよく、本橋さんのお話を聞いてました。
本橋 なんて聞いてました?
小野 いや、もう、本橋に聞けばこの業界のことは大体わかるんだよっていう話をされてたから。
本橋 中沢さんは大恩人なんですよ。あとは、末井さん。(編集部注:末井昭氏。作家、フリー編集者。元・白夜書房取締役編集局長)
小野 そうですね。末井昭さんと。
本橋 末井さん、中沢さん、森下さん(編集部注:森下信太郎氏。現・白夜書房代表取締役社長)で今の白夜書房グループを立ち上げて。一緒にやってた山崎紀雄さんが独立して、英知出版のオーナーになって。
小野 AVメーカーの宇宙企画も立ち上げたんですよね。
本橋 すごい面子が集まってた。エロ本界のビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズが一緒にいたようなもんですよ。
小野 本当に僕も、あの時代にその場所に居られて良かったです。まだ出版業界も余裕があって、取材、いろいろ行かせてもらえたじゃないですか。「エロ」に元気があった時代でした。
役者志望で上京した小野青年
本橋 小野さんは、九州から役者志望で上京したんですよね?
小野 もともとはですね。だけど、それはもう21でやめてますから。そこからはずっと出版業界ですね。
本橋 66年生まれだっけ?
小野 66年です。だから、87年からは出版の世界に飛び込んで。
本橋 役者の夢破れたのがその頃なんだ。でも、『ハチ公物語』(神山征二郎監督作品)に出てたじゃない。
小野 『ハチ公物語』が87年公開ですけど、もうその数年前から、食えないからなあって思ってました。
本橋 『ハチ公物語』で一緒だったんですよね、田中角栄の義理の甥っ子の山科薫と。
小野 そこもまたつながりがありますよね。山科さんはもともと、ポルノ俳優とか官能小説書いたりとかされてて。
本橋 小野さんは何役だったの?
小野 僕は、渋谷駅の駅員です。それで山科さんは渋谷駅の駅前の警察官。
本橋 すごい駅員と警察官だな(笑)。
小野 その頃、役者じゃあまりにも食えないんで、白夜書房だったら何とか面倒見てくれるんじゃないかと。当時、『写真時代』とかもまだありましたんで。それで、電話をかけたんですよ。
本橋 飛び込みで?
小野 飛び込みです。そしたら、電話に出た白夜書房の総務の女性が、「新聞見たんですか」って言って。ちょうど、新聞にアルバイトの募集を出してたらしいんです。それで末井さんの面接を受けて、二人採用されたうちの一人に入れて。
白夜書房って、当時はアルバイトにも社員の編集者と同じ仕事をさせてくれて、それをやってるうちに出版が面白くなったっていう。