2020.4.24
「一生お酒をやめ続けること」はできるのか? アルコール依存症・回復者インタビュー
酒の匂いで「飲みたい、飲みたい」
50歳を目前にしてアルコール依存症の診断を受けたKさんは、自助グループAA(アルコホーリクス・アノニマス)の回復ブログラムを順調にこなし、職業訓練校に通い、ホテルやレストランで派遣スタッフとして働き始めました。
あるとき、ホテルの宴会でお酒の提供をする機会があったそうです。その時点で3年近く断酒していたKさんですが、ふと「どんな匂いがするんだろう」と手元のグラスに鼻を近づけたとたん、それは襲ってきました。
「ふわぁ〜って、ものすごくいい匂いが……鼻から突き抜けるように、脳のどこかをはっきり刺激するんです。ああ、飲みたい、飲みたい飲みたい……って。『これはまずい』と、仕事中でしたけどすぐにその場を離れました。それ以来宴会の仕事は受けていません。結婚式とかで、大きな日本酒の樽を割ったりするじゃないですか、あのお酒を片付けたり、飲み残しを大量にバケツに捨てていったり、ホテルの宴会の仕事はお酒の近くにいなきゃいけないから危険でしたね」
再飲酒の誘惑を前に、自分でその場を離れる判断ができたKさん。断酒後3年ぐらいまでは、あらゆることが再発のきっかけになるため、お酒のある場所を避けるなど、気をつけて過ごさなければいけないそうです。
「再飲酒しちゃう人の理由で一番多いのが、キレちゃったとき。会社でうまくいかないことがあったとか、家族と口論になったとか。むしゃくしゃすること、怒りがたまるようなことがあると、危ないです。
長年しらふで過ごしていると、そういう危険な感じから自分で距離を置けるようになりました。今は、雲の上から自分を見ているような感じって言うのかなあ……『あ、今自分怒ってるな』とわかるから、その場を離れるとか、回避行動が取れる。お酒を見たら、おいしそうだな、飲みたいなとは思うんですよ。でも、飲まなくてもいいやって思えるんです。
飲みに誘われたり、楽しそうに飲んでる人を見たりすると、もう自分は一生飲めないんだ、って寂しくはなりましたよね。そうしているうちに、だんだん誘われなくなってくるし。
今では、必要ならお酒の場にも出ていくようにしています。その場にいても飲まずにいられる、っていうことが本当に酒をやめたってことですから」