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なぜ病気になるまで飲んでしまうのか? アルコール依存症・回復者インタビュー

愛された記憶のない幼少期

「これは、アルコール依存症の人ならわかってくれるような気がするんですけど……心にいつもぽっかりと穴があいていて、酒を飲んだときだけ満たされるんですよ。実際には、何も解決していないし、翌朝になるとまた空っぽになっているんだけど。だからまた、埋めるために飲む。その繰り返しです。
 僕の場合は、たぶん承認欲求なんです。自分はもっとできるんだ、認められるべきなんだ、って思っているのに、現実が全然そこに追いついてこない。
 僕は新卒で食品メーカーに入社したんですが、そこは入社5年目にみんな主任になるんです。でも僕だけなれなかった。そのことが、めちゃくちゃつらかったんですよね。
 周りから僕だけ取り残されてるのが耐えられなくて、そこを35歳のときに辞めて、別の会社で営業職に就くんですが、それも全く自分には合ってなかった。『俺はもっとできるのに、なんであいつが……』って、ずっとそういう思いを抱えていました。
 僕は大人になりきれてなかったんでしょうね。中身が子どものまま、理想の自分と現実の自分のズレを、修正できなかったんです」

 Kさんがそのことに気づいたのは、クリニックで紹介された自助グループ「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」に通うようになり、自分のスポンサー(助言者)と一対一で行う「人生の棚卸し」という作業を通してでした。幼少期から今に至るまで、どんなことが起こり、どのように感じていたのかを長い時間をかけて一つ一つ話し合っていきます。

「AAでは、自分より先に入会した〝先輩〞のメンバーと一緒に、自分の人生を一から振り返るっていう作業をします。僕の場合は32歳の人とペアになって、それをやりました。そこで僕は、自分が親に愛情を持って育ててもらえなかったんだっていうことに、初めて気づいたんですよね……。両親は僕に関心がなかったし、褒めてもらったりした記憶もない。愛情表現というのが、全然なかったんです。だからたぶん、認められたい、愛されたい、っていう気持ちが満たされないまま大人になってしまったんだと思う。
 僕の父方の祖父もアルコール依存症だったし、父も母も、自分が親から愛情を受けて育っていないから、子どもにもそれを与えられなかったんだろうな。そういう意味では、親のことを悪く思ってはいないんです。あの人たちも、かわいそうだな、仕方がないな、と思えた。AAのプログラムでは、『許す』ということがとても大事なんです。怒りは、スリップ(再発)につながるトリガー(きっかけ)になりうるので」

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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