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なぜ病気になるまで飲んでしまうのか? アルコール依存症・回復者インタビュー

飲まなきゃ生きていけない

 アルコールに限らず、依存症の治療の過程で、「スリップ」はつきものです。依存症とは再発を繰り返しながら回復していく病気です。一見順調に回復に向かっていたかに見えたKさんも、デイケアに通い始めて4カ月がたった頃、スリップしてしまいます。治療が進み、だんだん焦る気持ちが生まれてきたことが原因でした。

「仕事もせず、昼間はデイケア、夜はAAに通う生活です。社会復帰に対するプレッシャーとかが、自分の中で高まってきて、周りに対してイライラしていました。『手っ取り早く、どうすればうまくいくのか教えてくれよ!』っていう気持ちでした。うまくいくっていうのは、解決方法を教えてほしいってこと。突き詰めれば、どうすれば酒なし で、この世の中をわたっていけるのか、ってこと」
 
 アルコール依存症者や治療関係者から絶大な支持を受ける、漫画家・吾妻ひでおさんの『失踪日記2 アル中病棟』(イースト・プレス 2013)の中に、主人公の男性が「酒無しでこの辛い現実にどうやって耐えていくんだ?」と独白するシーンがあります。この台詞は、アルコール依存症者の心の叫びと言っても過言ではないでしょう。真面目に治療に向き合っていたKさんでさえ、「酒なしで生きていくことなんてできない」というのが本心だったのです。

「僕が飲んでた頃に、妻に言われて一番嫌だった言葉が『なんでそんなになるまで飲むの?』。なんでと訊かれるから、こっちもいろいろ理由を並べるんです。会社でこういうことがあった、あいつにこう言われた……とかって。でも『普通はそんなことで、そんなに飲まないよ』って返される。自分で言いながら、なんて説得力ないんだ、って、だんだん自分自身に腹が立ってきて。それでいつも最後は『しらふじゃやってらんないんだよ!』って捨て台詞吐いてました。
 でも、やけくそで言った言葉だけど、これが真実だったんですね。僕は、酒の力を借りなければ、現実と向き合う勇気がなかった。飲まなきゃ生きていけないんだ、って、自分で白状してたんですよ」

 
 スリップしたことをきっかけに、前述のAAでの「棚卸し」のステップに取り組み、そこから劇的に回復に向かっていったそうです。

順調に断酒を継続していたKさんを、さらなる再飲酒の誘惑が襲います。断酒中、どんなことに気を付けるべきなのか、飲みたい気持ちにどう対処するべきなのか……回復への長い道のりが語られる後編は、4/24(金)更新予定です。

斉藤章佳著 『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社) 1300円+税
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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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