2021.6.24
佐藤賢一『よくわかる一神教 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から世界史をみる』刊行記念特別寄稿。「一神教のことを調べて」
西洋歴史小説第一人者として、フィクション、ノンフィクションともに、蓄積された知識を駆使した力作を発表し続けている著者による世界史講義。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教をめぐる約三千年を追いながら、「一神教とは何か」について、深く説き起こします。
本書の刊行に寄せて、著者の佐藤氏より特別メッセージが届きました。
一神教の壮大な歴史を紐解いた末に著者がたどり着いた“最大の発見”とは……。
(構成/「よみタイ」編集部)
一神教の歴史はドラマの宝庫
語り下ろしで『よくわかる一神教 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から世界史をみる』という本を出します。
とはいえ、始まりはよくわかっていたからでなく、私自身よくわかるようになりたかったことでした。私は作家で、専ら歴史、それも多く西洋史、世界史に題を求めて小説を書いてきました。そうすると、いつもぶつかってしまうのが宗教、それもユダヤ教、キリスト教、イスラム教というような一神教だったのです。そのときどきの小説に必要なところだけ調べて、あとはわかったような、わからないようなままの状態でしたので、ずいぶん前から一度きちんと調べてみたいと思っていたのです。その念願が今回果たされたわけですが、そうしてみて、ふと気づくと強く抱くようになっていたのは、やはり小説を書きたい、一神教の小説を書きたいという思いでした。
というのも、一神教の始まりから今日にいたるまで、その歴史はまさにドラマの宝庫なのです。一神教ですから、神はひとつ、真理もひとつ、他の何物とも両立しません。全面的に受容するか、徹底的に拒絶するか、どちらかしかありませんから、人と人でも、国と国でも、あるいは信仰と信仰でも、関係は自ずから行くところまで行くしかなくなってしまうのです。中途半端な妥協もなければ、ちょうどよく折り合いもつけられない。なんにつけドラマチックになるというのは、思えば必然といえるかもしれません。
なかでも私が強く惹かれ、最も小説に書きたいと思ったのは、聖典の世界でした。一神教の聖典とは、ユダヤ人の歴史が物語られる『旧約聖書』、キリストとその弟子たちの言行録である『新約聖書』、イスラムの教えが説かれる『クルアーン』、そしてムハンマドの言行録である『ハディース』です。小説化するとすれば、その主人公は聖典に登場する預言者たちになるでしょうか。それは未来を予言する予言者でなく、神から言葉を預かる預言者です。一神教では、神の教えは預言者を通じて、はじめて人々に伝えられたのです。預言者には神から使命が与えられた、ともいえます。多くの場合は試練というほうが正しいでしょう。預言者は悩み、苦しみ、あげくに困難を乗り越える。その姿が実にエモーショナルで、感動的なのです。