2021.6.4
「『“100%”治る』『“絶対”改善する』と断言できないのが医療だと知ってほしい」。『漫画家しながらツアーナースしています。』発売記念対談<前編>
「“100%”治る」などと断言している医療情報は疑った方がいい
坂本 漫画やイラストの伝える力って本当にすごいですよね。「教えて!ドクター」も、チームの一員であるグラフィックデザイナー兼イラストレーターの江村康子さんあっての活動だと思っています。彼女のイラストやちょっとした漫画があるだけで、関心や理解の仕方が全然違うんですよね。
どんなに正確な情報を書いていても、長々とした文章だけでは「難しそう」とか「面倒くさそう」とか警戒されてしまって、なかなか読まれません。見ようと思ってもらうためにはやっぱり文章だけでは難しくて、イラストが警戒を解くきっかけになっていると思います。
明 先生は医療情報を受け取る側はどういう工夫が必要だと思われますか。正しい医療情報にアクセスするための心得とか。自分にとっても日常生活の悩みどころなんですけれども……。
坂本 正確な医療情報を知るためには、やはりまず公的機関の情報を使ってほしいなと思います。たとえば新型コロナだったら、まずは厚生労働省や国立感染症研究所などが発信している情報です。
また医者が言っていることならなんでも正しいと思い込まないことも大切だと思っています。誰が、なんのためにその情報を流しているか、ちょっと立ち止まって考えてほしいです。公的機関は、たとえば感染を減らすとか、公的な目的があって発信しています。しかし、ある情報を一部の医師やクリニックしか発信していない場合は、自分のクリニックで治療したいと思ってもらうために発言している可能性がありますから。
そういう意味で、多くの医療者が同じことを言っているなら信頼性がありますが、特定の人しか言っていない話というのは、それが医療者であっても、ちょっと立ち止まった方がいいかな、と思いますね。
あと、これは私が執筆したり発信するときにも強く意識していることですが、出典の確認は大事です。論文やガイドラインからの出典ではなく、個人ブログからの引用とか「ある医療関係者の話では……」なんていう、どんな医療関係者かもわからない伝聞情報とか、そういうものは裏を取った方がいいですね。
いわゆる陰謀論的な情報も医療情報には多いですが、基本的には怪しいと思ってもらった方がいいと個人的には思っています。陰謀論って、SNSでも人気で、多くの人がすぐに飛びついてしまいがちですが、その情報を鵜呑みしたり拡散したりする前に、ひと呼吸おいてほしいですね。
明 共和政ローマ期の政治家・カエサルも「人間は自分が信じたいことを喜んで信じるものだ」と言っていますが、そういう心理がわかるからこそ、私はきちんとした情報をていねいに届けたいと、いつも考えています。
たとえば、私はコロナの専門家ではないし、実際にコロナの患者さんを診ていません。その立場の私がなにかコロナについて発言したら「あの看護師さんが言っているから」と影響を与えてしまうかもしれない。だから自分から発することには気をつけないといけないな、と。
坂本 その気持ちはすごくわかります。「教えて!ドクター」でも地域に求められて、少しずつ感染対策の情報など発信するようになりましが、私も感染症の専門医ではないですし、やはり今みなさんの関心の高いことなので反響も大きいですから、発信する側として慎重になる感覚を持っていないといけないと考えています。
コロナに限らず、断言できないのが医療です。逆に「これで“100%”治る」とか「“絶対”改善する」とか、断言されている医療情報は疑った方がいい。
その一方で、患者や一般の方はやっぱりはっきりとした答えを求めるし、「100%大丈夫」と言ってもらえた方が安心するんですよね。そういう気持ちは医療者も理解しないといけないとも思いますが……。
明 悩み深いですね……。医療って、何十年もの研究や、何万例も症例が集まってようやく情報がまとまってくるものだし、同じ病名でも一人ひとり症状の出方や痛みの感じ方は違いますから。
「医療や健康って断言できない世界なんだよ」ということを受け取る側も知ってほしいなと思います。
今はコロナで大変な状況ではありますが、医療情報に関心が高まっているこの時期に、みんなが情報の取捨選択の仕方を学んだり、病気や健康について興味を持ったことを学んでみたりすると、コロナが落ちついた後もきっと役に立つと思います。
(後編に続く)
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著者は、現役漫画家にして、修学旅行や林間学校に同伴する看護師、通称「ツアーナース」としても活動する、明さん。
「ほっこり泣けて医療知識も学べ役に立つ」と大好評のハートフル・コミックエッセイ第3集です。
今作では「ツアーナース」の物語に大きく関係する「全国の現役ナース・先生・ママ」が多数協力。彼女たちが感動・共感した“推し回”の意見も参考に、全16話をセレクション。
「熱中症」「日焼けとやけど」「アレルギーとエピペンの使い方」「喘息と吸入器」「腎臓や心臓の持病」「バセドウ病」「場面緘黙症」「潰瘍性大腸炎」「貧血」などなど、子どもでも正しい医療知識がしっかり学べ、また職業やコミュニケーションの大切さ、教育のヒントも得ることができます。
医療監修を担当した「佐久医師会 教えて!ドクタープロジェクト」の坂本昌彦医師によるコラムも掲載。
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教えて!ドクタープロジェクトとは
坂本昌彦医師が責任者を務める「教えて!ドクター」は、長野県佐久医師会・佐久市による、子どもの病気、ホームケア、地域の子育て支援情報などを発信するプロジェクトチーム。
地域の子育て力向上事業としてだけでなく、SNS発信により「医師による確実な情報」を、リアルタイムで全国に発信しています。小児科医(医療者)と保護者の相互理解、相互負担軽減を目指しています。
公式サイト:https://oshiete-dr.net
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