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あなたの飲み方、大丈夫?
安く、飲みやすく、簡単に酔える、アルコール度数9%以上の「ストロング系チューハイ」の登場によって、お酒の問題を抱える人が増えています。

精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳が、酒飲みにやさしい国・日本のアルコール問題をさまざまな視点から考える『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)。
書籍の内容を一部変更して、お酒を飲みすぎてしまう人たちのケースを全6回にわたり紹介します。
ひょっとしたら、身近にいる誰かの顔が浮かぶのではないでしょうか。

前回の記事では、妻と死別した男性が、孤独感からアルコールに依存していくケースをご紹介しました。
今回は、子育て・介護を終えた女性のアルコール問題から、実は依存症と関わりの深い〝親子関係〟について考察します。

〝空の巣症候群〟の女性を惹きつけた甘いチューハイ

●50代女性・Fさんのケース

 看護師のFさんは、20代の時に勤務先の患者だった夫と結婚、二人の男の子を産んだ後も仕事を続けていました。
 
 息子二人が小学生の時、夫が仕事を突然辞めてしまい、それが元で夫婦の間で口論が絶えなくなり、離婚。幸い、父を亡くして一人暮らしだった母を自宅に呼び寄せることができたため、母の手を借りながら、息子二人を無事高校卒業まで育て上げました。
 息子は二人とも就職により地元を離れ、Fさんは老いた母とともに自宅に残されました。

 その頃から、母親の様子が少しずつ変わってきました。Fさんが職場から戻ってくると、まくしたてるようにご近所の悪口を言い、それに同調しなければ、Fさんにもすごい剣幕でつっかかってくるようになりました。また、Fさんがお財布からお金を盗ったと言い出し収拾がつかなくなることもありました。
 突然怒りっぽくなった母に戸惑ったFさんでしたが、やがて母は通い慣れたスーパーへの買い物でも道に迷うようになり、最寄り駅の名前や携帯電話の使い方なども忘れているときがあることから、認知症の初期症状であることがわかりました。
 
 これまで苦労をかけ続けた母のために、Fさんは看護師の仕事を辞め、母に付き添って毎日を過ごすようになりました。しかし、認知症になった母は、日に日に言うことが他罰的になり、Fさんにも、怨嗟えんさのこもった文句を一日中ぶつけてきます。
 可愛がっていた孫二人のことも口汚くののしることがあり、ある日耐えかねたFさんは、とうとう母親に手を上げてしまいました。
 
 自分自身が母に暴力を振るったことにショックを受けたFさんが、何とかストレスを解消しようと手を伸ばしたのがお酒でした。長い間飲酒の習慣がなかったFさんですが、スーパーに行けば、色とりどりの飲みやすそうな缶チューハイが売られています。
 酒に酔った状態なら、母の攻撃や頑なな態度もどうでもよく感じられます。これまで几帳面にこなしてきた家事や介護も最低限しか行わないようになり、生活は乱れていきましたが、イライラすることは少なくなりました。
 
 結局、2年後に認知症の進行した母親が入院し、その半年後に肺炎で亡くなるまで、Fさんは朝1本、昼1本、夜1本と、規則正しくストロング缶500㎖を飲み続けていました。
 
 母親の葬儀を終えたFさんは、その後加速度的に飲酒量が増えていったようです。年末に帰省した長男が、フラフラで呂律ろれつの回っていない母親を不審に思い、専門病院に連れて行きました。その頃のFさんは、ストロング缶500㎖を一日8~10本も飲む生活になっており、固形物を食べられなくなっていたため、ふくよかだった体形はガリガリになっていました。

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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