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春のセンバツが帰ってきた!初戦直前、天理(奈良)の前キャプテンを支えた妹との絆

「誰かを喜ばせる」という意識が強くなった

 強豪であればあるほど、それまで厳しい生活を送っていればいるほど、甲子園がなくなったことに対する選手たちの喪失感は大きかった。それでも、みんなをどうやってまとめるのか。コロナ禍で、キャプテンの力が試されることになった。

「野球部の関係者によれば、下林くんの評価はものすごく高いです。『下林がいるからチームになっている』『ずっといてほしい選手』などと聞きました。
 背中で見せるキャプテンですね。ノックのとき、誰よりも早く走ってサードの守備位置につく。下林くんは一番腰を落として守っていますね。めちゃめちゃ言葉がうまい子ではないんですけど、自分の姿勢とかプレーで引っ張っていこうっていう姿勢が見える。みんなはそれをわかっているから『アイツについていこう』ってなるんです。夏が近づくにつれて、たくましくなっていった気がします」

 奈良県の独自大会に三年生だけで臨んだ天理は、決勝戦で奈良大付に6対4で競り勝ち、優勝を飾った。
 
 試合開始直前、中村監督は三年生20人にこう呼びかけたという。

「目をつぶって、3月からの悔しかったときを思い出せ」

 それを聞いて、下林をはじめ三年生全員と中村監督が泣いた。「絶対に勝ってもう一度、監督を泣かせてやろう」と決意した下林は2回にホームランを放って、勝利を手繰り寄せた。

 試合後に中村監督はこう言った。

「下林でなかったら、こういう状況でみんなが耐えてここまで来られたかわからない。彼だったからこそ、素晴らしいチームができた」

 さまざまな困難に襲われたコロナ禍で、なぜ天理は熱い戦いができたのか? 山本が言う。

「今年の天理のテーマは『喜』でした。これまでは、『底力』だったり、『打開』だったんですが。試合ができる喜びを感じているし、自分たちのプレーで喜んでもらいたいという意識がチームの中にも浸透しているんです。
 これまでのキャッチフレーズは、主人公が自分ですが、『喜』には相手がある。『誰かのために』という部分が強くなっているのかなと思いました。『お世話になっている多くの人に喜んでもらいたい』という意識が。特に、奈良県の独自大会を取材して、そう感じました。『誰かのために』がもうひと踏ん張りできるかどうかのポイントだったんじゃないでしょうか」

『僕らの夏』では、下林兄妹をクローズアップしたが、源太は兄としてではなく、キャプテンとして最後まで戦った。

「本人は『妹のためにやっているわけではない』と言っていました。『ちょっとでも自分の姿が伝わったらいいな』というのが本音なんだろうなと思いますし、仲間にはもちろん、マネジャーである妹にも伝わったと思います」

甲子園史に残る2020年。球児たちの想いを追った『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』

『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』は、今回の天理高校のほかにも球児たちの感動エピソードが満載。

【第1章】ヒロド歩美が見た 2020年の高校野球
【第2章】球児を奮い立たせた家族の力
【第3章】甲子園が消えた夏に求めた 「心の中の甲子園」
【第4章】球児を支えた仲間の絆
【第5章】白血病から復活へ
【第6章】球児を育てた地域の力
【第7章】それぞれの「最後の夏」
【第8章】甲子園交流試合 熱戦譜

以上の全8章で構成されています。

『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』の詳細はこちらから

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