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だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』

だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』

 わたしたちのおしゃべりは、ほとんど価値のないものとされがちです。まるで感情や人生そのものに価値がないとでもいうように。そしてそれは、エッセイという表現が、なんだかいつまでも軽んじられていることと、けっして無関係ではないと思います。
 だけど、もし本当に価値がないのだとしたら、なぜこうも口を塞ごうとする人たちがいるのでしょうか。価値がないと、思い知らせようとする人たちがいるのでしょうか。
 わたしたちは、それらの力に屈して、おしゃべりをやめるべきでしょうか? あるいは、書くことをやめるべきでしょうか? ぼくはそうは思いません。けっして思いません。 
 あなたはどうですか?

 本書は、エッセイから引退するつもりだったという著者が、豊かな語彙や表現力、あらゆるタッチやフォーマットの限りを尽くして描いた、彼女と彼女の担当氏によるおしゃべりの記録であり、尊ぶべき人生の記録である。人の人生にとやかく口を出す人々や、マイノリティであることによって生じるややこしさ、それらを内包する社会の歪みを、ぱっと蹴散らす軽快さと熱量に満ちている。
 この熱につられて、あなたもぼくのように、つい自分の話なんてしてしまえばいいと思うし、ひとりでくるしんでいる人がいるとすれば、本書はきっと、語り出すきっかけを与えてくれるだろう。そういう力を秘めた本だ。
 だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある。はたから見たら意味のない会話にだって、それぞれの人生が宿っている。思えばいつだって、わたしたちはそれを見据えてきたではないか。
 だから、ツイートでもいい、LINEでもいい、ラップでもいい、紙の上でもいい。ひとまずはひとりごとでもいい。しゃべりつづけよう。朝から昼に、そして超早朝に流れ着いてもまだしゃべりつづけている、「はや朝」のお三方みたいに。わかんない人たちのことは、もう置いていけばいいのだから。
 それにしてもみんな、元気かな。そろそろ顔が見たいよ。

共通点のない二人が、ひたすら対話を重ねる漫画でもある。(©竹内佐千子/集英社)
共通点のない二人が、ひたすら対話を重ねる漫画でもある。(©竹内佐千子/集英社)
『沼の中で不惑を迎えます。』連続書評
●第1回 推し活に300万円以上つぎ込むも「私は中途半端なオタク」 ——おかずクラブ・オカリナさんインタビュー
●第2回 推しにたくさん幸せをもらったから、推しにも幸せになってほしい ——森三中・黒沢かずこさんインタビュー
●第3回 だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』
●第4回 何でもないような事は幸せだったのか——武田砂鉄さんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』

人気連載が待望の単行本化!

人気連載『沼の中で不惑を迎えます。輝くな! アラフォーおっかけレズビアン!』が本になりました!

人生の半分以上、沼にはまり続けて20年。
アラフォー、独身、実家暮らしの漫画家・竹内佐千子さんが、輝かない日常を綴るコミックエッセイ。
不惑を迎えるはずの身にふりかかる、推しの結婚、お金や健康問題、親の介護や自身の老後への不安……。
オタクにも非オタにもあまりにも切実すぎる、全アラフォー必読の書です!

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新刊紹介

少年アヤ

しょうねんあや●平成元年生まれ。エッセイスト。著書に『尼のような子』『焦心日記』『ぼくは本当にいるのさ』『なまものを生きる』『ぼくの宝ばこ』『ぼくをくるむ人生から、にげないでみた1年の記録』などがある。

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