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食費だけで14万! 準備万端で挑んだはずの「サハラ砂漠1000kmレース」で待ち受けていた最悪のトラブル

ハプニングは砂漠のように続く

砂漠を1000キロ走るために準備した食料。しめて計14万円、成人男性50日分になる。金額・量ともに群を抜いて過去最大だった。
砂漠を1000キロ走るために準備した食料。しめて計14万円、成人男性50日分になる。金額・量ともに群を抜いて過去最大だった。

 ハプニングは続いた。
 制限時間がここにきて20時間ほど短縮され、約17日間になったのだ。予定されていたモーリタニアからパリへの復路便が1日前倒しになったためだ。「こんなことあり?」とも思ったが仕方がない。素直に変更を受け入れた。

 翌朝5時に起き、6時過ぎから軽くランニングをした。昼は40℃を超えるが、夜明けは涼しく、気持ちよく走れる気候だった。シンゲッティの街を1時間ほど散策する。街にはラクダやロバがたくさんいて、共同使用の井戸がある。まさに砂漠の中のオアシスという感じだ。売店もあり、フランスパンとジュースとお菓子が売っていた。

 朝7時、日の出。日本では絶対に見ることのできない砂漠の地平線から浮き出てくるオレンジ色の太陽を堪能した。

 ホテルに戻って朝食。フランスパン、バター、ジャム、コーヒーとシンプルだったがおいしかった。コース説明などが行われた後、部屋に戻って休憩していると、ふと白いものが目に入った。
 スーツケースの上に、無数の白い虫がいるのだ! 
 急に体中がゾワゾワしだしあたりを見渡すと、マットレスや枕の上にもいっぱいいる! 大急ぎでウェットティッシュを出して、一匹一匹摘まんでいった。外から飛んできたのか、わらの天井から落ちてきたのか、わからない。きっと夜寝ている間も、体にまとわりついたりしているだろう。日本から持ってきた国内最強の虫除けスプレーを振りまき、とにかく病気にはならないことを願った。感染症になるのは、もうごめんだ。

 ひと段落してからレース中の約40キロごと、全24カ所に置く荷物を仕分けた。この荷物から走る間の食料を補給し、ウェアや医薬品の交換をするのだ。その準備を何ヶ月もかけて行ってきた。

 レースでは100キロごとのチェックポイントで温かい食事(野菜スープ、パスタ、クスクス、ライス)やデーツが提供されるとのことだった。これまで世界各地を訪れレースをしてきた経験から、アフリカで提供されるパスタを日本で食べられるパスタと想像していては絶対にだめだと思った。全くの別物がでてくるくらいに思っておいたほうがちょうどいいはず。満足できる量がでるかどうかもわからない。そう危機管理し、主催者に頼らずすべて自前での準備を前提に考えることにした。

 砂漠を1000キロ走るためにはどんな食料がどれほど必要になるのだろうか。調べた結果、約11万キロカロリーが必要になるとわかった。これは成人男性に必要なカロリーと言われている1日2200キロカロリーの約50日分、おにぎりだと611個分に相当する。
 過去のレース経験からも毎日ずっと走り続けると1日約5000キロカロリーほどが必要になる実感もあるので妥当な数字だと思った。水分は成人男性に必要な量と言われる1日2.5リットル、70〜100日分に相当する175〜250リットルというのが目安となった。
 これらを限られた中でどう揃えるのかを悩んだ末、4種類に分類して準備することにした。

 ひとつ目が「水分補給時の食料」。
 大量の補水と合わせてエネルギー摂取ができれば、吸収と消化で内臓を動かすことが少なくなり負担が少なくなるからだ。そして暑さでバテてしまった際にも栄養補給しやすい。これは熱中症実験でわかったことだ。
 そこでずっと愛用している粉末の完全食を「COMP」協力のもと揃えた。この完全食は、脂質、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など人間に必要な栄養素がすべて入っている食品で、日常生活なら理論上はこれだけ食べれば生きていけるものだ。それを約6万キロカロリー分準備する。豆乳のような味なので、なるべく飽きがこないようオレンジやグレープなどの粉ジュースを混ぜて味を変える。

 ふたつ目は「走りながらとる行動食」。
 これは食事時間の短縮とカロリー摂取が主な目的で、おいしく食べやすく飽きないもの。砂漠で2週間以上も預ける荷物に入れておくため、乾燥しづらいものが良い。もちろん軽ければ軽いほうが望ましい。
 そこで選んだのがお菓子。やさしい味の「タマゴボーロ」、「ビスコ」、甘い味の「トッポ」、「カントリーマアム」。塩気は「ぼんち揚」、「おにぎりせんべい」など。大型スーパーの菓子売り場で、小分けのものを買い集めた。

 3つ目に「チェックポイントでの食事」。
 レトルトのカレー、牛丼、フリーズドライ食品の雑炊や味噌汁、フルーツなど、心身がリフレッシュできるものを揃えた。これはチェックポイントで止まって食べることを想定しているため、走るときには自分で持ち運ばず、運んでもらうドロップバッグに入れておくから重さは考えなくていい。
 とにかく保存がきく好物を選んだ。牛丼は当然レンチンなどできないので、常温で食べることになる。そこで常温で食べた時、どの商品がおいしいのかも徹底的に食べ比べをした。各メーカーとも常温でのおいしさなど想定していないだろうが、基本的には油分が固まっていたりしておいしさは半減する。その中でも、常温でおいしく食べられる商品を見つけて選んだ。

 最後に「サプリメント」。
 長期間走ることにより疲弊する筋肉と内臓を支える狙いだ。内臓の消化機能のエネルギー源となるグルタミン、疲労を軽減させるイミダゾールジペプチド、さらにパフォーマンスを上げるアミノ酸などのサプリを選んだ。

 そうして食料だけで計14万円、成人男性50日分の食料を準備した。これは金額・量ともに群を抜いて過去最大の準備だった。僕がアドベンチャーマラソンをやり始めたころは、ただ単に「カロリーが高く重量が軽い食料」という浅い考えしかなかったが、今では猛暑地で起こる体調不良に適しているものは何か、どんなものを摂れば筋肉疲労の軽減や精神のリフレッシュが期待できるのか、どうすれば飽きずに補給し続けられるのかなど、多方面から考えることができるようになった。
「どん兵衛」に泣かされた自分が懐かしい!

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北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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