2020.6.9
強く美しきもの、それは全ての母たちと吉田沙保里である〜吉田沙保里(元レスリング選手)
2017年から始まった明治のヨーグルト「R-1」のシリーズCMでも、「さおりん」(吉田)が夫「なおくん」(大森南朋)と結婚式を挙げた第1弾以降、妊娠、出産、娘の幼稚園入園とCM内では、あれよあれよという間に時が流れ、吉田のママ役が今ではすっかり定着している。
実際には吉田自身は独身で、ママではない。
たとえば、この「R-1」のCMにママ友役で出演した元女子サッカー選手・澤穂希は実際に一児のママであり、それを念頭に置いた上での起用だっただろう。他の広告を見ていても、ママ役を演じているのは、実生活でもママであるタレントや女優がほとんどではないだろうか。
吉田のツイッターやインスタグラムには姪の写真がたびたび登場し、「子ども好き」のイメージはあるとはいえ、なぜ吉田にたびたびママ役が割り当てられるのか。謎は深まるばかりだ。
アスリートとしての吉田の輝かしい功績については、改めて説明するまでもないだろう。
女子レスリング個人で世界大会16連覇、個人戦206連勝という前人未到の記録を打ち立て、「霊長類最強女子」の異名も今ではすっかり浸透している。こうした吉田の経歴から考えれば、壁に張り付いて目から光線を出しているALSOKのCMの方がよほど本人らしいような気もする。そんな吉田のどこに「ママ要素」があるのかと考えてみたのだが、ひょっとするとここ数年のメイクやファッションが影響しているのではないだろうか。
なぜ「綺麗な女性」ではなく「綺麗なママ」なのか
そもそも、現役時代の吉田に「メイク」「ファッション」といったイメージはあまりなかった。
吉田のファッションといえばレスリングのピタッとしたユニフォームが真っ先に頭に浮かぶし、試合中はもちろんのこと、オフショットでも素顔で写真におさまっている姿の方が印象に残っている。
吉田の公式ブログ(2009年5月26日)では、26歳の時に初めて化粧品を購入(初めて購入した化粧品がジルスチュアート ビューティであることに女子力の高さを感じてしまうが、この際それはまあいい)したことが明かされている。だがしかし、2016年、リオオリンピックの決勝戦でアメリカのマルーリスに敗れ、オリンピック4連覇の夢が破れ号泣する吉田は素顔であった。
それがリオオリンピックの後くらいから、バラエティ番組などで見る吉田の姿に変化が生じたような気がする。長く伸ばした髪をゆるく巻き、ツヤ肌に仕上げたメイクをし、ふわっとしたパステルカラーの服を身にまとう姿を多くテレビで見かけるようになった。
2019年1月に現役引退を表明してからは、すっかり吉田のレスリング姿を見ることが少なくなり、変わって朝の情報番組「ZIP!」(日本テレビ系)でパーソナリティーとして活躍する姿の方がおなじみとなっている。「ZIP!」では「霊長類最強パーソナリティー」と自称しているが、今の吉田の姿には、その呼び方はあまりしっくりきていないように思う。
その吉田のメイクとファッションを見ていると、何かどこかで見かける人のような気がしてくる。
たとえば休日のショッピングモールで。保育園のお迎えで。PTAの会合で。
そう、皆さんの周囲にもこういう雰囲気のママが一人はいないだろうか。
もとの顔立ちどうこうというよりも、メイクやファッションに気を遣い、「綺麗なママね」と言われるようなママ。吉田からはそうしたママ感が漂ってくるのだ。
しかしなぜ「綺麗な女性」ではなく「綺麗なママ」なのか。
それは吉田が持つ圧倒的な強さによるのではないだろうか。
綺麗なメイクとファッションの下に潜む強さ。
強さと美しさの共存。
それは同時に、世の母たち全てが持つ要素なのではないかと私は思う。