2026.3.19
童貞喪失モノAVがあまりにもドキュメンタリー作品だった【平成しくじり男 第8回】
セックスの痕跡が、確かにあった
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それから末広純さんに導かれるように長谷川さんは騎乗位や後背位を楽しみ、正常位へと体位を変更する。初めての正常位が思ったより難しかったのか、長谷川さんは「下手くそだ」「初めてだからわからない」「自信がない」と弱音を吐きながら不器用に腰を振った。なんとか上手く腰を振ろうと必死な長谷川さんに対し、「こっち見て」と末広純さんが声をかけると、オーディションのときから目を合わせることのできなかった長谷川さんが、末広純さんと真っ直ぐに目を合わせた。正常位の体勢で初めて目を見つめ合いながら2人が言葉を交わすシーンは、間違いなくこのドキュメンタリー作品のひとつの山場だ。
長谷川 「自信がない」
末広純 「じゃあ、動かないでこのままこっち見て」
長谷川 「はいっ!」
末広純 「すごい。いっぱい見てくれる。嬉しい」
長谷川 「はいっ!」
末広純 「え~、嬉しい」
長谷川 「はいっ!」
末広純 「嬉しい。ずっと見てくれてる」
長谷川 「はいっ!」
末広純 「めっちゃ嬉しいよ」
長谷川 「ようやく見れたぁっ!」
末広純 「めっちゃ嬉しいよ」
長谷川 「はいっ!」
新海誠の映画作品にも引けをとらないほどに美しすぎる、ボーイミーツガールを象徴するかのようなこのシーンをひっくり返す出来事が起こったのは、それから10分ほど後のことだった。
正常位で腰を振るのに疲れ果てた長谷川さんは、末広純さんにリードされながら騎乗位でラストを飾ろうとする。「こっち見て」「おちんちんに集中して」と語りかけながら腰を振る末広純さん。しかし、長谷川さんの表情は徐々に曇りがちになってゆく。
「ごめんなさい。俺、自分の息子が強すぎるかも。ごめんっ!」
急に長谷川さんは謝りはじめる。つい数分前まで騎乗位で腰を振られながら「いつでもイけそうですっ!」と意気揚々としていた表情は完全に失われていた。初めてセックスをして、気持ちよくて、勃起もしているのに、射精ができない。長谷川さんは騎乗位を中断すると、末広純さんの隣で自らの手で高速手コキをしながら、いま自分の身に降りかかっている未知の感覚をなんとか理解しようと、叫ぶように言葉を発した。
「我慢汁をたぶん出しすぎたのかもしれない! そうじゃないと勃ってるのにイかないはおかしい! 勃ってるのにイかないは! イかないってことは、これ女優さんに申し訳ないっ!」
長谷川さんの口から出てきた「女優さんに申し訳ない」という言葉に引っかかった末広純さんは、「なんでよ!そんなことないよ!」と反射的に声を張り上げ、「一回、聞いて」と、長谷川さんの右手を掴んで高速手コキを中断させ、顔を近づけて語りかける。
末広純「別に今日はイかせたいわけじゃなかったの。わかるでしょ? 別に私はどうしてもイかせたいとかじゃなくて」
長谷川「はいっ!」
末広純「女の子って可愛いんだよとか」
長谷川「はいっ!」
末広純「触ってて気持ちいいんだよとか」
長谷川「はいっ!」
末広純「セックスって楽しいんだよってことを伝えたかっただけだから」
長谷川「はいっ!」
末広純「無理してイこうとしなくていいんだよ。ぜんぜん、私はそんなんで傷つかないから」
末広純さんのその言葉を聞いて長谷川さんは何を思うのだろうか、と思った瞬間だった。
「でもっ、それは、僕が傷つきますっ!」
そう叫びながら、長谷川さんはまた高速手コキを再開した。
「いいの、いいの、こっち見て」
そう呼びかける末広純さんと長谷川さんの視線は、もう交わらない。長谷川さんは末広純さんから視線を逸らしながらひたすら高速手コキに集中し、その右腕とシーツがリズミカルに擦れる乾いた音だけが、ラブホテルの室内に響き渡った。
末広純「別に頑張んなくていいんだよ!」
長谷川「頑張んないといけない人間なので!」
末広純「頑張らせたかったわけじゃないの今日」
長谷川「ダメです!純さんに申し訳ないですっ!」
結局、末広純さんの言葉が長谷川さんに届くことはなかったし、長谷川さんは自らの高速手コキでも射精することはできなかった。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
長谷川さんが謝り続けるなか、撮影は終了した。
*
「無理してイこうとしなくていいんだよ」「私はそんなんで傷つかないから」と優しく語りかける末広純さんの目の前で、「ダメです!純さんに申し訳ないです!」と高速手コキをし続けるという、長谷川さんの取った最後の行動はあまりにも独りよがりなものだった。長谷川さんがしたかったことはセックスではなく、セックスという名のオナニーだ、と批判されても仕方のない振る舞いだ。しかし、「でもっ、それは、僕が傷つきますっ!」と高速手コキをする長谷川さんの叫びは、あまりにも切実なものだった。誠実な言葉をかけながらセックスをリードしてくれる末広純さんがいなければ、長谷川さんはそんな自分の欲望に直面する機会もなかっただろう。
最後の2人はたしかにすれ違っていた。しかしそのすれ違いは、一度しっかり交わった人間同士でなければ起こり得るはずのないすれ違いだった。そういう意味では、無表情で高速手コキをし続けた最後の長谷川さんの姿には末広純さんとのセックスの痕跡が確かにあったし、それはあまりにも童貞の喪失だった。
(了)
※本稿は、筆者が2023年にnoteに公開した内容に加筆・修正を行った記事です
次回連載第9回は4/16(木)公開予定です。
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