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ライジング!

第23回 人間諦めも肝心!? 最大のピンチに妻がかけてくれたひとこと

リリース初日に迎えた正念場

 照鋭社のヤングホープ編集部は、電話対応に追われていた。〝マンガホープ〟が全く動かないことへのクレーム電話が殺到していたのだ。ネットへの書き込みで誰かが編集部の電話番号を載せ、それをきっかけに突撃だといわんばかりにユーザーが電話をし始めたのだ。中には悪質なイタズラ電話もあり、編集部は対応に四苦八苦していた。
 
 そんな中、小柴は菅と電話をしていた。
「ガースー、どうだった? ナノ&ナノの開発チームで対応できそう?」
『それが、必死に頼んだんですが難しそうです……』
「そうか……」
『弊社のラインはどこも手いっぱいで……。一か月後なら手が空くけどってことらしいんですが、まさにいま助けが必要なのに何を悠長なことを言っているんだという感じで……』
 菅も必死に頼んだのだが、何しろ急すぎるお願いだ。いくら食い下がっても手を貸してくれそうな気配はなく、最終的には上司に「Eセサミはお前が選んだ会社だろ! その開発が消えたなら、お前が何としろ!」と叱られてしまっていた。
「了解。他に伝手あったら当たってもらえる? こっちでも探すのから」
 小柴が電話を切ると、野島がスッと寄って来た。
「ダメでしたか?」
「だね」
「自分も知り合いのプログラマーに片っ端から連絡してるんですが、繁忙期でどこも手一杯らしいです」
「そっか。……よっし!」
 小柴は立ち上がると、問い合わせ電話が途切れたタイミングで編集部員に発破をかけた。
「みんな! ここが正念場だ! まさか初日にこんな山場を迎えるとは思わなかったが、〝マンガホープ〟の未来は我々にかかっている! 全力で事に当たってくれ!」
 編集長からの笑顔の激励に編集部員たちはそれぞれ「はい!」と返事をした。
「いい返事だ!」

 週刊誌の編集作業は激務だ。普段からその環境で鍛えられているので、編集部員には心身ともにタフな人間が多い。たとえ心折れそうな場面になっても、トップが元気な態度を見せれば士気が高まることを小柴は分かっていた。その逆もまた然り。辛そうな顔をしているとみんなの士気も落ちてしまう。苦しい時にこそ笑顔を見せるのが管理職の務め。小柴はそう思っていた。

「コシさん、外の空気でも吸って来たらどうですか?」
 小柴が無理をしていることに、野島だけが気づいていた。周りの目があっては、小柴は落ち込むことすらままならない。なのでせめて一人になる時間を作ってあげたいと野島は思ったのだ。
「そうだな……ついでになんか買い出しでもするか。打ち上げも中途半端になったし、みんな腹減ってるだろう」
 そう言うと小柴は、みんなから食べたいもののアンケートを取り出した。「遠くまで行くの嫌だからコンビニで買えるもの限定な!」等と言っている。気分転換ですらタダでは行かない。野島はそんな小柴の根性に脱帽した。
「じゃ、行って来るぞ」
 小柴はそう言うと買うものリストが書かれた紙をヒラヒラさせて廊下に出た。

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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