よみタイ

ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、順調な開発スケジュールに違和感を覚えていることを明かした小柴。さらに、行きつけのスナックで気になることを言われる。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第19回 嫌な予感ほどよく当たる⁉ 無視できなかった占い師のひとこと

「ライジング!」 第19回

 二月二日、小柴は一人でなじみの薄い街の駅前に立っていた。というのも、行きつけのスナック〝かえで〟で気になることを言われたからだ。
 小柴はそのときのことを思い出していた。

「小柴さん占いに興味ありますか?」
 最近キャストとして入った、夕子ゆうこという名の怪しげな雰囲気の女性が、いきなりそう聞いて来た。小柴は別の若いキャストと会話中だったので、気もそぞろにあっさりとした返事を返した。
「いや、特にないけど」
「じゃあ私が占ってあげましょうか」
〝じゃあ〟の意味が分からないなと思った小柴だったが、若いキャストの子が「夕子さんの占い当たるんですよ~」とはしゃぐものだから断りづらくなり、なんとなく占いをしてもらうことになったのだ。

 夕子さんは年季の入ったタロットカードを器用にシャッフルし、カードの山を小柴の前に置いた。
「左手で一回カットしてください」
「分かりました。……まみちゃんハサミある?」
「え~、そのカットじゃないですよぅ~。小柴さん面白いんだから」
「そうか? ははは!」
 若いキャストにギャグがウケてご満悦の小柴だったが、夕子さんをチラリと見ると、真顔でじっとこちらを見ていた。
「……すいません」
 思わず謝り、小柴は山札を適当につかんで横に置いた。夕子さんは残った札を、小柴が置いた山札の上に置き、一番上のカードを表向きにしてテーブルに置いた。
「なるほど」
 夕子さんはそう言うと、今度はカード何枚かを裏向きのまま脇へと置いた。そしてまた一枚を表に。そんなことを繰り返して、場にカードを五枚出した。

「危険ね……あなたこれは危険よ」
 急に夕子さんはフランクな口調になった。〝〇〇の母〟と呼ばれるタイプの占い師のような喋り方だ。
「何が危険でしょうか?」
 ノリを大事にしたい小柴は、真剣な口調で夕子に尋ねた。
「今年は仕事上で大きな災難が降りかかるわ。そういう運命なのね」
 就職して以降、仕事で災難が降りかからなかった年は無い気がするな……とは思ったものの小柴は大きめのリアクションで「何ですって!」と驚いた。不思議なもので、相手に合わせて演技しているうちに小柴は本当に占いの結果が気になりだしていた。

正位置と逆位置によって、同じカードでも意味が変わってくるタロット占い
正位置と逆位置によって、同じカードでも意味が変わってくるタロット占い

「かなり大きな災難よ。厄が来るのね」
「なんてこった……」
 小柴が不安そうな表情を見せると、夕子さんはにこりと笑った。
「安心なさい。厄除けをすれば最悪の事態は回避できるわ」
「厄除け?」
「そう、厄除けよ」
「厄除け……」
 小柴は壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返した。もしかしたら壺やお札の類が出てくるかもしれない、と身構えていたので、少し拍子抜けしたのだ。
「厄除けって、どこですればいいんですか?」
 小柴の質問に夕子さんは少し逡巡してから、ある神社の名前を口にした。
「今週の土曜日に行ってきなさい。占いでは、その日に行くと良いと出てるわ。行って悪い運命を変えてくるのよ」
「でもその日は妻と出かける予定が……」
「占いではキャンセルになると出てるわ」
「その五枚のカードに、妻と出かける予定がキャンセルになる……って占い結果が出てるんですか?」
「そうね。あと、迷える子羊も一緒に連れていってあげなさい」
「子羊? それも占いに――
「出てるわ。連れていけば、その子羊の悪い運命も変わるわ」
 夕子さんの断定的な物言いに、小柴はだんだん疑わしい気持ちが芽生えてきた。そもそも迷える子羊とは何なのだろうか。
「なんかよく分からないんですが、運命って厄除けしただけで変えられるんですか?」
「〝運命ではない。未来は自分の手で切り拓け〟。私の師匠の言葉よ」
「『ターミネーター』でジョン・コナーが同じことを言ってた気がしますが……」
 
 いよいよ胡散臭くなってきたなと感じた小柴は、気分をリセットするためにトイレに立った。するとカウンターにいたかえでママが声をかけてきた。
「あらお帰り?」
 その言葉を背中で聞いた小柴は二、三歩進んでからゆっくり振り返った。
「アイルビーバック」
「どうしたの急に?」
「あ、あの……さっきターミネーターのこと思い出したから、その、ちょっと影響されちゃって……」
 しどろもどろになりながら、タイムマシンがあったら五分前に戻りたいなと思う小柴だった。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事