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ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、ローンチ予定のアプリ“マンガホープ”について、照鋭社パーティーの席上で一気に広める作戦に出た太陽たち開発チーム。
知名度がアップしたからには、絶対に開発に遅れが出るわけにはいかないのだが……。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第17回 順調すぎる進捗報告の裏に隠されていた、驚きの実態

「ライジング!」 第17回

 Eセサミの新人プログラマー、郡家は不安なまま新年を迎えていた。チームに入って作業している青年漫画アプリ〝マンガホープ〟の完成が、一向に見えてこないのだ。納期に対して作業量が膨大で、ちゃんと時間内に完成させるには年末年始も休んでいる場合ではなかったのだが、プロジェクトリーダーの氷上の指示で、チーム全員がしっかりと正月休みをとっていた。
 何人かは氷上に作業が遅れているのではないかと質問していたのだが、氷上は全く焦らず「大丈夫だ」というだけだった。プロジェクト発足当時、まだ郡家がチームに入っていないときは、氷上は精力的にこの仕事に取り組んでいたように見えた。毎日早くに出社し、遅くまで働いていた。作業部屋を外から覗いても、氷上は生き生きとキーボードを叩いていたのだ。それが今ではすっかりやる気がなくなり、朝も遅刻してくるようになったし、たまに酒の匂いをぷんぷんさせて出社してくることもあった。
 郡家はEセサミに入って間もないが、会社がそんなに良くない状況であることは肌で感じていた。そんな中で〝マンガホープ〟のプロジェクトが持つ意味はかなり大きいだろう。氷上にもそれが十分に分かっている筈なのに……。
 
 新年の出社初日、郡家は思い切って氷上に想いをぶつけることにした。生意気だと言われてもいい、むしろ新人の郡家に言われた方が、氷上も目が覚めるかもしれない。
 作業部屋に入り、椅子に座ってマウスをカチカチ動かしている氷上の元へ行く郡家。
「氷上さん、ちょっといいですか?」
「何だ? お年玉ならやらんぞ」
 氷上の冗談を無視して、郡家は思い切って言った。
「〝マンガホープ〟ですが、このままだと納期に間に合いませんよ」
「心配するな」
 氷上はパソコンの画面から目も離さずにそう言うだけだった。生意気だぞと怒鳴られることを覚悟していたのに、この態度は何だろう。肩透かしを食らった気分になった郡家は、思わず声を荒げた。
「氷上さん! 僕は真剣に言ってるんです! 徹夜でも何でもして協力しますから、どうかやる気になってください!」
 必死の思いが通じたのか、氷上はパソコンの画面から顔を上げて郡家を見た。
「よし、じゃあ仕事をやろう。次の照鋭社での打ち合わせに使う資料の作成をお前に任せる。大事な資料だからしっかり作れよ」
「分かりました!」
 勢い込んでそう答えた郡家だったが、渡された指示書を見てがく然とした。
「氷上さん、こんなものを照鋭社さんに持って行くんですか!?」
「こんなものとは何だ。立派な資料じゃないか」
「でもこれ――
 郡家は言葉を飲み込んだ。

 それは、アプリ作成が順調だということを説明する資料だった。実際にはできていない部分を「こういう感じに動きます」と説明する、いわば張りぼての資料だ。これを見せれば、打ち合わせは切り抜けられるかもしれない。しかし、現に開発は進んでいないので、その場しのぎにしかならないだろう。
「こんな資料作ってるヒマあったら、もっとプログラミング作業を進めるべきじゃないですか!」
「うるさい! いいから黙って作れ。あとお前、そんなに仕事が好きなら管理画面周りも担当させてやる。入稿や課金に関わる部分だから、まちがいがあると大問題だからな! 手を抜くなよ!」
 氷上はそれだけ言うと、またパソコンの画面に視線を戻した。
「分かりました……やります」
 それだけ言うと、郡家は失意のまま自分の席に戻り作業を始めた。彼の眼には、涙が光っていた。

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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